テルのタイピング記

タイパー・テルによるタイピング記(旧ブログ -> http://uta202.blogspot.com/)

Keyboard Input Hackathon 2023 を開催しました!

Keyboard Input Hackathon というイベントを主催しました。

とても楽しかったこのイベントのことを、紹介させてください!

目次

 

Keyboard Input Hackathon とは

キーボードやタイピング好きが集まって、ゲーム/ツール/キー配列など、自由なテーマで創作を楽しみ、発表する、ゆるゆるハッカソンイベントです。

詳しくは公式サイト:Keyboard Input Hackathon (terum.jp)

なぜ開催したか

楽しいタイピングライフ

私は競技タイパーとして、タイプウェルREALFORCE TYPING CHAMPIONSHIP などでライバルのタイパー達と腕を競っています。また、最近はタイピングゲーム/ツール開発者として、Typing (is) Nonsense の製作なども行っています。

長年タイピング関係の活動をしているおかげで、タイパーやタイピングゲーム開発者の知り合いが沢山でき、毎日楽しく過ごしています。

でも、なんか足りない……

でも、なんか足りない感覚がありました。

それはなぜか?

  1. 自作キーボード勢とか配列勢めちゃくちゃ楽しそうやん!
    • なのに俺全然その界隈のこと知らないやん!もったいな!!
  2. 開発ガンガン進めたいのにノウハウ全然集まらんやん!!!
    • この界隈に開発者沢山いるのにコミュニティ若干弱いのもったいな!!

そう、ワイワイと色んなキーボードを作って/使って楽しんだりワイワイと色んな配列を作って/使って楽しんだりしてる人たちに混ざりたいなーーーーーーーー!!!! と思ったのです。

あとは、そういう人たちと仲良くなってノウハウを頂戴したり、開発者同士が仲良くなることでキーボード/タイピング界隈の開発者コミュニティ活動が促進されるといいな、とも思いました。

イベント開いちゃおう

ということで、以下の 2 つをテーマにしてイベントを開くことを思いつきました。

  1. キーボード界隈の異文化交流をする
    • 配列勢×自キー勢×タイパー×ソフトウェア開発者
  2. 開発者を刺激して開発活動を促進する
    • 自分を刺激する、参加者を刺激する、見た人も刺激する

開いてみた結果

素晴らしい作品たち

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/T/TeruMiyake/20230507/20230507204513.png

こんなに素晴らしい作品たち(KIH2023作品発表ページ)が、たった 2 日という短い期間で生み出されました。

およそ 3 時間にわたる発表会 が終わった瞬間、「こんな濃密で幅広い作品群が、この狭い空間でたった 2 日のうちに生まれたのか……」と、なんだか呆然としてしまったのを覚えています。

ぜひ、発表会の生放送アーカイブ発表作品一覧をご覧になってください。

本当はここで皆さんの作品を少しずつ紹介したいところなんですが、面白い作品ばかりで無限に語ってしまいそうなことと、そんなことより生放送アーカイブと発表作品一覧を見てくれ! ということで、割愛いたします。

異文化交流

非常に充実した異文化交流ができたと思います。

それを端的に表すのは、参加者の一人である大岡俊彦さんの記事と、作品である動画だと思います。(ダイジェスト動画の説明欄から、各本編にジャンプすることができます。)

【薙刀式】キーボード強者の日常文打鍵動画: 大岡俊彦の作品置き場 (seesaa.net)

youtu.be

 

競技タイパーと配列勢という近くて遠い存在が一堂に会して、お互いの本音を語り合う経験は新鮮でした。

お互いに理解していること、誤解していること、なんとなく知っていること、全然知らないことがあったし、今もあると思います。

大岡さんは、私たちタイパーの入力風景を見て「すげーーーー!!!」というような反応をしてくれました。私の方でも、自作キーボード勢のパーツの違いに対する理解の解像度の高さに驚愕したり、漢直をはじめ各配列勢の入力風景の独自さに興味を抱いたりと非常に刺激的でした。

 

配列勢の人たちが、私のタイピングを見て競技タイピングを始めるかというと、基本的に、そうではないと思います。私自身も、配列弄りに足を突っ込むというと、競技への影響が懸念されるので突っ込みません。(自作キーボードはちょっとやるかもしれない)

じゃあこれまでと何も変わらないんじゃない? と言うと、それは違って、色んなことが変わりました。うーん、何が変わったのかな。言語化しにくいんですが、私の中では沢山のことが変わったように思います。

自キー勢でも配列勢でも競技タイパーでもソフトウェア開発者でもないキーボードが好きな人

話が少し変わります。

ここまで、自キー勢/配列勢/競技タイパー/ソフトウェア開発者の話をしてきたと思いますが、キーボード好きってそれだけじゃないと思います。

今回のイベントでは、Risaさんという方が動くカラフルキーキャップ スタンプという作品を創作されました。

私はこういうのも大好きです! 自作キーボード勢の人たちで、かわいいキーキャップを作る人とかも沢山いますし、タイプライターのようにインテリアとしてのキーボードというのもありますよね。

そっちの異文化交流も、もっともっと出来たらいいんですが、風呂敷を広げすぎるとイベントがまとまらないですし、中々難しいですね。

 

謝辞

参加者の皆さん

今回のイベントにご参加下さった皆さん、本当にありがとうございました。

もちろん、開発参加者の方だけでなく、観覧参加者の方も含めて、皆さんあってのイベントでした。

正直に言うと、会社の飲み会や身内のイベントならともかく、こういったコミュニティイベントの主催経験は無く、準備中も常に不安がありました。全然参加者が集まらなかったり、イベントが何かのトラブルで大失敗に終わったらどうしよう、と気を揉んでいました。

運営には至らない点もあった(本当に沢山ありました……)のですが、ある程度目を瞑って笑顔でご参加頂き、全体として楽しく実施できました。ありがとうございました。

 

もちろん、参加者の皆さんの優しさに甘んじ過ぎず、イベントアンケートを参考にして改善していくつもりです。今後とも、末永くお付き合い下さいますと幸いです。

ご協賛

REALFORCE | 日本製プレミアムキーボードの最高峰

皆様ご存じ REALFORCE の東プレ株式会社様に賞品のご協賛を頂き、楽しい REALFORCE 体験スペースを設けて頂きました(非常に盛り上がりました!)。

REALFORCE TYPING CHAMPIONSHIPの開催など、東プレ株式会社様のタイピングコミュニティを後押ししようとして下さる姿勢は本当に有難く、頭が下がるばかりです。

また、東プレ株式会社様の協力者様からも、配信スタジオのご用意など様々なサポートを頂きました。

今回は誠にありがとうございました。今後とも素晴らしい製品の開発をよろしくお願いします!

 

また、遊舎工房様にも、店頭にチラシを置かせて頂きました。

快くご対応下さり、誠にありがとうございました。

Daihukuさん

2 日間一緒に会場にいて、素晴らしい生配信を実施して下さいました。

配信に関わる技術や気配りなども大尊敬に値するのですが、何より、色んな人とポジティブに交流して場を盛り上げる姿がすごく素敵な方でした。

本当にありがとうございました! これからも仲良くしてください!

運営のたのんさん、白狐さん

本当に、本当に、マジで、ありがとうございました。

お二人がいなければ、イベントの形は相当に様変わりして、色々なところに大きな不満が残る結果になっていたと思います。

様々なところで助けて頂いたのですが、特に挙げるとすれば……

たのんさん
  • 素晴らしいアイスブレイクのアイディア
    • 参加者の交流がすっごく活発に行われた今回のイベントの立役者は、これだったと思います。名前を呼ばせることで自然と交流が深まるアイスブレイクのアイディアは、様々なイベントを経験されたたのんさんならではと思います。
  • きめ細かい対応
    • 私はひじょーに大雑把なところのある人間(長所でも短所でもあると思ってますが)なので、たのんさんがキッチリ細かいところを埋めてくれることに非常に助けられました! 主催者が埋めるべきという説もあるのですが、やはり人には向き不向きがあるので、今後もたのんさんに足を向けて寝ないようにしたいです。
白狐さん
  • フットワークの軽さ
    • ガンガン意見を出して、ガンガン手を動かして、物事を前に進めていく力に非常に助けられました。完全なるゼロから作り上げたイベントなので、白狐さんのパワーとスピードのおかげで色んなアイディアが形になっていったと思います。
  • 発表会の進行
    • 開発参加者達が 2 日間ずっと魂を削り続けて作り上げた作品を、生配信ありでリアルタイムに発表していくわけなので、かなりの重要事項でした。これをほぼ全面的に仕切ってもらったので、主催者の私としては非常に助かり、自分の開発を行うことができました。これを任せられる人はそうそうおらず、ぜひ今後も頼らせて頂きたいですので、今後も白狐さんに足を向けて寝ないようにしたいです。
twitter, Discord, YouTubeなどで反応して下さった方々

インターネットを通して KIH を盛り上げてくれた皆さんにもお礼を言いたいです。

会場で発表会をやっている時に YouTube にコメントを頂いたり、同時接続数が伸びたりする度に、Daihuku さんから「こんなコメントが来てますよ!」などと言われたりして、とても嬉しかったです。

また、準備中に「つら……」という気持ちになることが多々ありましたが、twitter や Discord のコメントなどに非常に勇気づけられました。

誠にありがとうございました!

今後の展開について

何かをやります!!

次回も「ハッカソン」という形を取るかどうかは分かりません。

コミックマーケットのような「展示会」形式を取るかもしれないですし、例えば「2週間の開発期間(Discordでの継続イベント)からの展示会(オンサイト1日)」といった独自の形式を取るかもしれません。

 

ともかく、以下のことだけは、私の頭の中で決定しています。

楽しかったから、来年もなんかやるぞ!!

 

ぜひ、今後もテルに対するご理解、ご協力、ご応援、ご声援、ご指導、ご容赦のほど、よろしくお願いします!

一緒にキー入力ハッカソンを運営しませんか?

  • 本記事は、タイパー Advent Calendar 2022 - Adventar 12月21日分の記事です。
  • 前日の記事は、issei さんの「毎パソ全国優勝までの道のりと今、タイピングのe-sportsについて」が予定されています。
  • 翌日の記事は、issei さんの「どなたかにインタビューします」が予定されています。

現在の募集状況

たのん 参戦!!

記事の呼びかけに応えて、たのんさん(Twitter: @tanon_710)が運営に参加して下さることになりました!

たのんさんは、このタイパーアドカレの運営のほか、コロナ禍前まで実施されていたタイピングサミットでの運営協力、タイピング Discord コミュニティの管理など、多方面にコミュニティ活動を展開されている方です。

このハッカソンも、たのんさんの積極性と運営経験が加わり、私一人で運営するよりずっと良いものになりそうな予感です!

まだまだ募集中

強力な仲間が増えましたが、特にイベント当日は人手を必要とする作業が多そうです。準備段階から継続的にご協力頂くか、当日だけとなるか分かりませんが、ご協力下さるかたはまだまだ募集しておりますので、まずはお気軽にお声がけください。

まえがき

来年の3/25, 26に、タイピング/キーボード/文字入力などをテーマにしたハッカソン*1 Keyboard Input Hackathon 2023 を開催することになりました。

キーボード関連分野の色んな製作者が集まる、とっても楽しくて今までになかったイベントになる予定です!


その協力者、つまり「面白そう!一緒に運営してみたい!」という方を募集したく、この場を借りさせて頂きます。

ハッカソンではありますが、競争/コンペといったイメージよりは、異文化交流*2を楽しむイベントの色合いが強いです。運営側として参加することで、多くの参加者とより濃密にコミュニケーションできると思います!

ぜひ、私と一緒に新しいイベントを作り上げましょう!

Keyboard Input Hackathon について

公式サイト

開催告知ツイート

人は結構集まりそうです

イベント概要

イベントの概要について説明します。以下は公式サイト(ランディングページ)からの引用です。

  • キー入力全般(タイピング、キー配列など)をテーマとした、ゆるゆるハッカソン
  • このテーマで「何かをつくりたい!」という人なら、誰でも大歓迎です!

もう少し具体的に説明します。

  • 参加者がつくる「何か」はわりと何でもいいです。
    • 「キー入力全般」に引っかかっていればいいので、例えばタイピングゲーム、タイピング競技者向けキーロガー、論理キーボード配列、自作キーボード*3などなど、色々考えられます。
    • 他にも、キ―ボードをテーマにした短編アニメでもいいですし、タイピング競技をテーマにした漫画でもいいです。会場のルールと公序良俗が許す限り何でもいいと思っています。
  • 「ゆるゆる」なので、ガチで競うタイプではありません。
    • 例えば Yahoo! Japanハッカソン Digital Hack Dayでは、最優秀賞に300万、優秀賞に100万に賞金が用意されたようです。そういう感じではありません。みんなで作品をつくって、みんなで褒め合おう! という雰囲気でやりたいです。
    • もしかしたら賞金・賞品を用意することもあるかもしれませんが、「MVP投票をして、優勝者に3万円」くらいが限度と思っています。*4

興味がある方へ

具体的に何を、どの程度やって頂くかは、お互い話し合って決めましょう。 一方的な「これをやってください」「分かりました」という関係ではなく、一緒に楽しんでイベントを作っていければと思っています。

また、「自分はこういうことに興味があるから、この部分を手伝いたい」とか、逆に「こういうことは興味がないから、この部分はやりたくない」というような希望もどんどん言ってください。

お願いしたいこと

現時点で考えている、手伝ってほしい部分を説明します。これを全部バサッとお願いしたいというわけではなく、この辺りを一緒にやっていきましょうというイメージです。

  • 公式サイト(イベント概要やQ&Aなど)の充実

    • Notionで作成中の公式サイトを充実させる作業です。Discordでの話し合いの結果を反映させたり、デザインをかっこよくしたり、ありそうな質問をQ&A形式で整備したり、色々です。
    • ランディングページのリファインやロゴ作成もやっていく予定なので、その辺りも手伝ってほしいです*5
  • 当日の運営補助

    • 当日は色々と忙しくなりますので、適度に分担させてほしいと思っています。できるだけ当日の作業が減るように計画して、私もあなたも開発に参加できるようにすることが目標です!
    • トーク系(ルール説明とか、司会とか)は、「やりたい!」という場合は一部お願いしようと思います。「あんまり大勢の前で喋るのはちょっと……」という場合は無しでも大丈夫です。
  • 発表会や投票などのシステムを一緒に考えてつくる

    • Notionで発表/投票などのシステムを構築したいな~とぼんやり考えています。とは言え、独自にWebアプリを作るとか、他のSaaSを使うとか、他にも選択肢はありそうです。その辺りの相談をしたり、実際の作成を分担できればありがたいです。
  • その他いろいろ

    • 懇親会*6の計画、小道具等*7の準備
    • 机・椅子の配置や配線などの計画
    • 前日もしくは当日朝の設営

お願いしないこと

大きなトラブルに発展しかねない部分は、お願いしません。

  • 契約やお金の支払い/受取りに関すること
    • カンパやスポンサーに関すること
    • 当日の参加費徴収や懇親会の食事ケータリング予約など
  • 参加者間のトラブルに関すること
    • 当日に参加者間で言い争いが発生したとか、盗難/紛失が起きたとか、何らかの事故にあったとか、そういったことの仲裁や、万が一の警察等の当局対応など
  • 開催後のアフターフォロー
    • 開催後も公式サイトを残し、参加者が成果物を公開できるように残そうと思っていますが、開催後のことは私一人でやるつもりです。*8

やってみたいかも! と思ったら

まずは気軽に、私(テル)までご連絡ください。コンタクト方法は何でも構いません。

コンタクト

  • Twitterアカウントまでダイレクトメッセージ(DM)
  • Discord アカウント:Teru#4310 までメッセージ
  • ちょっとした質問であれば、このブログ記事へのコメントでも構いません。

参加したら何かいいことがある?

  • 礼金などは払えません。当日の会場への交通費も、申し訳ないのですが、自己負担でお願いします*9。協力者は参加費*10や懇親会費をゼロにしたり、設営のために前日に来てもらったらご飯をおごる、くらいはします!
  • ゼロからイベントを作るので、純粋にめちゃくちゃ楽しいと思います!
  • 様々な趣味や考え方を持つエンジニアと仲良くなれる(かも)
  • 就活に役立つ(かも)、社会人としての経験になる(かも)
    • 企画・運営力やコミュニケーション力がつきます
    • Notionに慣れることができます
      • 色々な企業で利用され始めたNotionを最大限に活用して運営していきます。IT企業でもタスク管理やドキュメント公開などによく使われていますので、良い経験になると思います!

あとがき

以上、勧誘でした! まずはお気軽に、カジュアル面談から始めましょう。(?)

また、「そこまでガチでは手伝えんけど、こういうことはできるかも!」といった方も、いらっしゃればぜひお声かけください!

*1:一般的には、プログラマーなどのクリエイターが集まって、数時間~数日かけて、即興のアイディアでゲームやサービスを開発し、発表会を行うイベントです。

*2:「タイピング/キーボード/文字入力」と一言でいっても、かなり範囲が広いですから、今まで会ったことのない種類の参加者や、考えたことのない概念や発想に出会えると思います!

*3:はんだや刃物等の特殊作業については安全衛生上の考慮などが必要になりますが、できないわけではありません。

*4:予算の問題もあります。また投票や感想投稿などのフィードバック系を充実すればするほど、盛り上がる半面、運営が大変になります。協力者がいて下されば、多少その辺りの充実度をアップさせられるかもしれませんが、あまり過大にやろうとは思っていないです。

*5:ロゴは、イラレを購入して頑張って自分でつくろうと思っているのですが、意見やアドバイスをもらったり図柄を相談したりしたいです。

*6:会場は飲食・飲酒可です。部屋の一角にコミュニケーションスペースを用意して、軽食を置くなどして交流を促進したり、開発中の休憩時間が充実したりするようにできたらいいなと思っています。

*7:多分用意しなきゃいけないものが沢山あります!リストアップするところからしてかなり大変そうです。

*8:もちろん、めちゃくちゃ楽しかったから引き続き何かやりたい!と言われたら別です

*9:他のところで、個人の出費がわりとヤバそうなので……

*10:そもそも参加費を徴収するか分かりませんが

陸上競技のルーツから、競技と現実との関わりを読む

  • 本記事は、タイパー Advent Calendar 2022 - Adventar 12月17日分の記事です。
  • 前日の記事は、pogi さんの「成長できなかった1年で気づけたこと」が予定されています。
  • 翌日の記事は、dqmaniac さんの「多言語タイピングにおけるギリシャ語の強化」が予定されています。

今回の記事では、陸上競技のルーツをさぐる|筑波大学陸上競技部OB・OG会という、陸上競技の歴史に関する興味深い連載記事を紹介します。

それを元に、私のコンプレックス(劣等感)が緩和され、タイピングを含めた「競技」という文化をより広い視野でポジティブに眺められるようになった話をしたいと思います。

まえがき

ぶしつけな質問ですが、あなたには何らかのコンプレックス(劣等感)がありますか? 容姿コンプ、学歴コンプなどなど…… まあ、人間、割り切れない感情が色々あるものです。

タイパーとしての私は、陸上競技コンプ」 でした。

弟が優秀な兄に対して劣等感を持つように、タイピング競技者として、陸上競技にコンプレックスを持っていたのです。

陸上競技コンプレックスとは

「いやいや、陸上競技コンプって何? 聞いたことないよ?」

こう思った方もいるかもしれません。私の感覚を説明していきます。

競技の普遍性

陸上競技(短・長距離走)の場合

こんな場面を想像してみてください。

いま、あなたの目の前に、地球の文字も言葉も知らない異世界人がいます。あなたと異世界人のどちらが上ですか? 100m走で決めてください。

これは簡単です。ストップウォッチを用意して、かけっこするだけです。

もしかしたら、異世界人は三足歩行や一足歩行、もしくはキャタピラのような足(?)を持っているかもしれません。しかし、そうであってすら、100m走で勝負を決めることはできるのです。


次に、こんな場面を想像してみてください。

いま、あなたの目の前に、馬がいます。あなたと馬のどちらが上ですか? 1800mダート走で決めてください。

まあ、実際に走らなくても勝負は見えていますが、これもストップウォッチを用意してかけっこするだけです。


陸上競技の凄さ、分かりますか?

普遍性が非常に高いですよね。(短|長)距離走という競技は、「自らの身体(と靴)のみを用いて移動する」ことが可能なら、平等に勝負できるのです。

タイピングの場合

タイピングの場合はどうなるか、考えてみましょう。

いま、あなたの目の前に、地球の文字も言葉も知らない異世界人と、馬がいます。3者の中で誰が一番上ですか? タイピングで勝負して決めてください。

これでは、勝負することはできません。異世界人は言葉が分からないですし、馬にいたっては、指すら持っていません。


では、地球人が相手であれば、必ず勝負できるでしょうか?

いま、あなたの目の前に、アメリカ人と、ロシア人と、中国人がいます。あなたたち4人は、それぞれの母国語しか分かりません。4者の中で誰が一番上ですか? タイピングで勝負して決めてください。

これも難しいですね。それぞれの母国語で競っても、言語システムが違うため、結果を比較できません。全員が4つの言語でタイピングして、その合計時間を競うのは一つの手ですが、それは別の競技のようにも思えます。


このように、タイピング競技は「誰とでも平等に競い合える」というわけではありません。つまり、普遍性がそれほど高くないと言えます。これは、タイピング競技は「文字や文章を入力する」という行為をルーツにしていることから、言語と無関係に成立することは難しいことが原因です。

私は、「普遍性が高くない競技は、ダサい」と思っていましたから、それがコンプレックスに繋がっていました。

競技の厳密性

陸上競技(短・長距離走)の場合

こんな場面を想像してみてください。

いま、あなたの目の前に異世界人がいます。異世界人はアレフガ◯ドという世界から来ました。あなたと異世界人は100m走で勝負しようとしています。

[審判] よーい、ドン!

[異世界人] ル◯ラ!

[実況] たった今、世界記録が更新されました! 記録は0.728秒、まさに伝説の幕開けです!

これが陸上競技のルール上許されるかは、議論を呼びそうです。

陸上競技ルールブック2022を見たところ、以下の記述(TR17.6)が気になります。

トラックからの離脱

17.6 TR24.6を遵守している場合を除き、レース中に自らの意思でトラックを離れた競技者は、そのレースを継続することを認められず、完走しなかったものとして記録されるものとする。いったんトラックを離れた競技者がレースに戻ろうとした場合、審判長により失格とさせられる。

この記述を根拠に、ル◯ラによる瞬間移動を「自らの意思でトラックを離れた」として、失格を主張する審判員もいるかもしれません。最終的には、瞬間移動のメカニズムが問題になるのでしょうか。

また、MP(魔力)が自分の身体から湧き上がるものなら良いですが、外部から取り込むようなものであれば、ドーピング規定が問題になるかもしれません。そのほか「そもそも、足を使って走れよ」という意見もあるでしょう。


これは、競技の定義が曖昧である場合に起きる問題の例です。

しかし、実際には魔法を使える人間はいないので、このような問題は起きません。本来、「100m先のゴールまで自分の身体で移動する」という定義は、とても単純かつ厳密です。スキップだろうがなんば走りだろうが、なんなら這って進もうが、靴以外の道具や機械を用いなければ、出された記録に文句はつかないでしょう。

タイピングの場合

タイピングの場合はどうでしょうか? 以下のような状況を想像してみてください。

あなたたち4人はタイピング勝負をしました。日本語の課題文が同時に示され、それぞれのPCを用いて文章を生成し、送信するまでの時間の長さを計測しました。

[課題文] 吾輩は猫である。名前はまだ無い。

[競技者A~Dの打鍵列]
※(変)は変換/無変換キー、(E)はEnterキーを表します。
A: WAGAHAIHA(変)NEKO(変)DEARU.(E)NAMAE(変)HAMADA(E)NAI(変).(E)
B: わか゛はいは(変)ねこ(変)て゛ある。(E)なまえ(変)はまた゛(E)ない(変)。(E)
C: WAGAHQHA(変)NEKO(変)DEARU.(E)NAMAE(変)HAMADA(E)NQ(変).(E)
D: わか゛はいは(↓)(↓)(E)なまえは(↓)(↓)(E)。(E)

競技者A~Dが実際に打鍵したキー数と、入力環境は以下のとおりです。

[共通事項] IMEの辞書登録は無し
A: 41キー, ローマ字入力 + IMEの予測入力は無し
B: 30キー, JISかな入力 + IMEの予測入力は無し
C: 39キー, 拡張ローマ字入力AZIK + IMEの予測入力は無し
D: 18キー, JISかな入力 + IME (Google 日本語入力)の予測入力を利用

さて、この4人の記録(送信までにかかった時間)は、単純比較できるでしょうか? それは、この勝負を行う際に取り決めたルール次第です。 ルールが厳密に定められていたのであれば良いですが、もしルールに曖昧な部分があったのであれば、順位をつけられません。

とは言え、こういった入力環境の違いについて、厳密なルールを策定することは難しいです。少し考えると、考慮しなければならない点は多岐に渡る*1と分かります。


このように、タイピング競技は厳密なルール策定が難しいです。つまり、ちょっと雑なまとめ方かもしれませんが、厳密性がそれほど高くないと言えます。

私は、「厳密性が高くない競技は、ダサい」と思っていましたから、それがコンプレックスに繋がっていました。

陸上競技はどう発展したか?

陸上競技のルーツを探る

こうして陸上競技へのコンプレックスを募らせていった私ですが、落ち込んでばかりもいられません。 コンプレックスに向き合おうとして、陸上競技のルールやその変遷について少しずつ調べていく中で、ある記事に出会いました。

陸上競技のルーツをさぐる|筑波大学陸上競技部OB・OG会

この連載記事は、陸上競技を中心とするスポーツ史学者の岡尾恵市先生によるもので、2018/7/30から2020/10/31まで、実に73回に渡って掲載されました。

見どころ

記事の中でルーツが語られる競技は、短距離走、マラソン、障害物競走等のトラック競技に留まらず、跳躍や投てきなど多岐に渡ります。

これらの競技は全て、明確かつ精緻なルールブックを持つ、高度に洗練された競技であるように見えます。 しかし、記事を読んでいくと、これらの競技も最初から洗練されたものではなかったことがよく分かります。 日常の素朴な動作から競技らしきものが生まれ、だんだんと洗練されていく過程を感じられます。

また、普遍性が非常に高い*2と思っていた陸上競技も、現実世界との関わりの中で、時には恣意的に競技のルールが生み出されてきたことが分かっていきます。


これらの記事の中から、いくつか、特に面白いと思ったエピソードを紹介します。 それらは全て、「競技」という概念や、現実世界との競技の関わりについて、私の認識を変えさせるような影響力のあったものです。

記事の紹介

さて、ここからは実際に、特に面白かった記事を紹介していきます。

興味を持った方は、ぜひ元の記事を実際に読んでみてください。特に、最初から通しで読むと、競技の発展の過程をより生き生きと楽しめると思います!

5, 6 短距離のスタートの方法について

スタートに工夫を凝らす意外な理由

現代的な目線で見てしまうと、「競技のスタート」と言えば高い厳密性を要する分野です。 当然、その発展の歴史というのも、「いかに厳密性を高めるか」の歴史だと考えていたのですが…… 実情は意外なものでした。

初めは、賭けレースを面白くするため、むしろ厳密にしないように工夫が求められたようです。 その後、記録が重要視されるようになって、ピストルや電気計時が発達したのだとか。 確かに、陸上のような実力差がそのまま結果に繋がりやすい競技は、厳密であればあるほど観戦者としては面白くない場合もある、というのは道理です。

スタート方法の発達

クラウチングスタートをする際、今では足を置くためのブロックが利用されていますが、昔はそのような器具はありませんでした。 選手が各自で穴を掘り、それを利用してクラウチングスタートをしていたようです。

しかし、その更に前は、クラウチングスタートは行われていませんでした。つまり、クラウチングスタート用の穴も用いられていませんでした。

となると、クラウチングスタートへの移行は、競技性を大きく変化させたはずです。 というのは、地面ではなく穴の壁を、縦向きではなく横向きに蹴ることになるからです。 それが具体的にどの程度の違いをもたらすか分かりませんが、例えば「AZIKかローマ字か」くらいの差異感はあるのではないでしょうか?

競技性が変わるということは、当然、その過程でクラウチングスタートはありやなしやと、激論が交わされたはずです。 新しいスタート法が許容されていく過程で、当時の陸上界でもタイパーがするのと同じような紛糾があったのかな、などと想像すると面白いです。

7~14 障害物競走等ハードル競争の歴史

ハードル競争や障害物競走の起源が語られます。

王侯貴族の楽しみであった「馬に乗ってのウサギ狩りやキツネ狩り」を自分たちも楽しもうと、競馬場という限られた空間内で平民たちが障害物競争を行ったことが、ハードル競争や障害物競走の始まりだと書かれています。 初めは競馬場内で様々な障害物を乗り越える遊びだったものが、様々な過程を経て競技として抽象化されていったようです。 そして、その抽象化の最終形がハードル競争なのでしょう。

興味深いのは、ハードル競争と比べれば「抽象化の途上」とも思える障害物競走が生き残っていることです。 倒れないハードルと水濠という要素が、ハードル競争との差別化と競技のダイナミックさを、絶妙なバランスで実現しているのかもしれません。

現実的なニーズを持つ行為の「競技化」というものは、一般的に言って「抽象化」の過程だと思いますが、必ずしも「抽象化すればするほど良い」というわけではないようです。 面白いですね。

また、競技としての発展が、ハードルという道具そのものの進化と結びついていることも面白いです。 例えばタイピングの場合、キーボードがNキーロールオーバーに対応しているといないでは競技性が変わってしまいます。 ハードル走においては、安定して立ち、かつ足が引っかかれば適切に倒れるような現代型のハードルの発明がそれに当たるのかもしれません。

15~18 超長距離走と「マラソン競争」の歴史

ラソンは、陸上競技における花形種目の一つだと考える人は多いのではないでしょうか。 また、市民マラソン大会が各地で開かれていることなどから、非常に身近な競技でもあります。

そんなマラソンの起源について問われたら、この記事を読む前の私は「えーと、古代? の…… なんか故事があって……」くらいの答えを返したでしょう。 42.195kmという中途半端にも思える距離が、何らかの故事にちなんでいることだけ知っていた状態です。


この記事の内容は、最大まで要約すれば「古代ギリシャの故事にちなんで、約40kmの長距離走が第1回オリンピックで実施され、マラソンと名付けられた。」ということであり、元々持っていた認識と大きな相違は無いと言えるかもしれません。しかし、私が注目したいのは、そこではありません。

注目したいのは、ここです。

1896年の「近代オリンピック大会」を復興するにあたり、クーベルタン男爵の周辺には開催の意義を理解し、積極的に運営する人はほとんど存在しませんでした。

こうした状況を打開しようと、男爵はパリ・ソルボンヌ大学言語学者で歴史家でもあるミッシェル・ブレアル教授の助言を求めました。教授の提案は「マラソンの故事」の古戦場から、伝令のフィディピディスが息絶えたとされるアテネ市公会堂跡<アクロポリスの北麗にある「アゴラ」という名で呼ばれていた市場>までの距離を実測し、新しく始める「オリンピック大会」にこの距離を走る長距離競走を採用してはというものでした。

詳しくは元記事を参照して頂きたいのですが、つまりは 「オリンピックを行いたいがために、教授に相談してマラソンの故事を見いだし、そこに(悪く言えば)こじつけるように競技をデザインした」 ということです。

こういったあり方は、本来私が嫌っているはずの「現実的なニーズがまずあり、そこに競技が生まれる」構造、つまり「現実が主であり、競技が従である」構造にも見えます。しかし、登場人物の熱を感じるこの記事を読んだ私は、そうは感じませんでした。

私が感じたのは、以下のようなことです。

  • ラソンのような陸上競技界の優等生(?)ですら、現代ほどの地位を獲得するまでには、故事を利用して「現実と競技を結びつけること(私はこれを、現実接点マーケティングと呼んでいます)」を必要とした!(いわんや、タイピングが競技として成り立つためには、現実接点マーケティングを必要とするのは当然である!)

私は常々、現実の文章生成と競技を混同して、競技成果の評価に勝手なノイズを交える人たち*3に対して、なぜ全く別の無関係なものを混同するんだろう、と考えていました。

また、そういう人たちがあまりにも多くいるので、どうして競技と現実の本質的な無関係性について理解を得るだけのことがこんなにも難しいのだろうか、この世界はどうなってるんだ、つらい、つらい、といつも部屋の隅で体操座りをしながら枕を殴っていました。

しかし、マラソンですら現実接点マーケティングを必要としたことを目の当たりにして、なんというか「ああ、世界はそういうもんなんだ」という納得がいきました。

もっと言えば、世界が望む形でないことについて悲観したり愚痴を垂れているだけではなくて、クーベルタン男爵のように行動しなきゃ駄目なんだ、と偉大な先輩から反省を促されたような気持ちになりました。


……先ほどの文章は、私の中の、幾分かはマシな社会性を持つ部分が抱いた感想です。私の中の社会性が低い部分は、次のようにも感じました。

  • そうか、現実が競技を規定・抑圧するだけではないのだ。競技を推進したい側が、現実接点マーケティングを利用して大衆を扇動できるのだ!

ラソンの場合は、事実こうだったのです。クーベルタン男爵は、現実接点マーケティングを利用して大衆をアジテートし、競技に都合の良い展開へ誘導したのです!

こうなってくると、世界の構造についての見え方は、正反対の様相を呈してきます。大衆が競技を抑圧するのではありません。大衆は、その無理解さゆえに、競技に利用されるのです! ザマーミロ!!!

もちろん、社会に害をもたらすような扇動は避けるべきでしょう。そもそもクーベルタン男爵がやったことも別に悪いことではありません(むしろ善いとされる行いでしょう)。ただ、いつも私が持っていた、競技が現実の下に置かれているような、抑圧されているような感覚が、この発想の転換によって引っくり返ったことと、その喜びを伝えたいのです。

19~22 駅伝競走の歴史

こちらの記事も、マラソンの例に勝るとも劣らないほどの「企画とマーケティングが競技を作り上げた例」です。讀賣新聞社(読売新聞社)の一大企画が始動し、だんだんと具体性を帯びていく過程が描かれます。「驛傳(駅伝)」という名称の決定に至る過程での業界人同士の検討の様子など、非常に興味深い内容が多いです。

また、ダイナミックに競技が具体化していく過程を、こうまで立て続けに突き付けられ、関係者の熱を感じてしまうと、「競技の定義の厳密性」は、私が元々感じていたほどに絶対不可侵とすべきものなのだろうか?という気持ちも湧いてきます。

元々、内心では「いかに競技の定義にこだわっても、結局、競技者と観戦者が楽しくなければ仕方ない」という思いはありました。それに加え、これらの記事を熱心に読んでいくことで、競技を取り巻く文化やコミュニティ全体の「熱」とでも言うべきものは、どうにもバカにできない、重要で価値あるものではないか、と感じたのです。

また、翻って、タイプウェルとGANGASに私が感じた魅力も、実はそちらではなかったか、とも思いました。考えてみれば、タイプウェルの競技性は限りなく厳密だとか、限りなく洗練されているというわけでもないはずです。ケチをつけようと思えば、いくらでもつけられます。それでも私がタイプウェルとGANGASによって骨抜きにされたのは、それらを取り巻く文化やコミュニティ全体の熱があってこそだった…… この記事を読んで、そんなことをなぜか思い出しました。

あとがき

今回は、陸上競技をきっかけとしてタイピング競技を考える観点から、特に面白いと思った記事群を3つ紹介させて頂きました。

とは言え、他の記事も全て面白いですので、皆さんも、ぜひ元記事をご覧ください。年末年始の暇な時間にでも、コタツに入りながら通しで読んでみてはいかがでしょうか。正月の駅伝テレビ中継も、ひと味違った気持ちで楽しめるかもしれません。

また、あなたがもし競技タイパーであれば、ぜひタイピングに引きつけて読んでみることをおすすめします。新しい発見があると思います。


記事を読んで感じることは人それぞれだと思いますが、私の場合は、競技の「純粋性」や「厳密性」とでも言うべきものに対しての、強すぎる絶対視(神聖視?)を少し解きほぐすことができました。目の前にある「技術を競うこと」という競技の本質ばかりに目が行っていたところを、それを取り巻く環境や、その歴史的積み重ねに対して、前以上に目を向けることができるようになった、ということかもしれません。

その他には、「競技やそれを取り巻く文化は、主体的に作っていくものなんだ」という覚悟を、歴史の重みから受け取ったような気がします。

そういった気持ちの変化が、Typing (is) Nonsenseの製作とランキング運営によって新しい競技を定義する試み*4や、Keyboard Input Hackathonの開催によるキーボード関連コミュニティの交流活性化への挑戦などに繋がっています。今後も、先人に恥じぬよう…… いや盛りすぎか。それは厳しいです。えー、先人の足元くらいには辿り着けるよう、頑張っていきたいと思います!

*1:例えば、物理(ハードウェア)的なキー配列、論理(ソフトウェア)的なキー配列、打鍵された論理キー列を確定前文字列に変換する仕組み、確定前文字列を確定後文字列に変換する仕組み、などなど……

*2:ゆえに現実世界からの競技としての独立性が高い

*3:例えば典型的には、正確性の必要の無い競技の成果について正確性を評価するとか、速度の必要のない競技の成果について速度を評価するとか、変換の存在しない競技について唐突に変換機能の話を始めるとか

*4:今回の記事では、競技の定義にこだわりすぎなくてもいいと思い始めたと言いました。その気持ちと反するようではありますが、それはそれとして、一つの思考実験(文化実験?)やひねくれたエンターテインメントとして、尖った定義にこだわる独自の競技を構成するのも面白いと思っています!

東京ゲームショウ 2022 東プレ REALFORCE ブース来訪レポート

まえがき

日本最大級のゲームの祭典「東京ゲームショウ 2022」に行って参りました!

もちろん最大の目当ては、タイパー御用達のキーボードブランド REALFORCE (東プレ株式会社)のブースです。

今回は現在開発中という完全新設計のゲーミングキーボードが目玉展示となっていましたが、タイパーの私としては必ずしも"ゲーミング"であることには特段の魅力を感じないのですが、単純に「新製品はしっかりチェックしておこう」くらいの気持ちで来訪しました。

REALFORCE に関するゲームニュース系記事は多いので、通常は私がわざわざ記事を書く必要も無いのですが、今回は開発中のゲーミングキーボードがかなり期待できるものだったこと東プレブースの社員さんから非常に有意義な話が聞けたので、共有したい(そして東プレは最高だと皆さんに知ってほしい)ので記事を書くことにしました。

tgs.nikkeibp.co.jp

 

開発中のゲーミングキーボード

基本情報については以下の記事などを参考にしてください。

pc.watch.impress.co.jp

game.watch.impress.co.jp

試打した感想など

以前からラインアップされているゲーミング機種の RGB シリーズは、通常の Realforce シリーズと打鍵感がわりと大きく違った(確かわりとクリッキーで打鍵音も大きかったような?)があったように記憶しています。またキー荷重 45g しか無く、all 30g がラインアップされていなかったため、all 30g ユーザーの私としては選択肢に入らない存在でした。

今回の開発中ゲーミングキーボードはしっかり all 30g も用意されており、かつ R2 や R3 など通常のラインアップに近いクセの無い打鍵感でした。また、R3 の黒キートップは表面摩擦が若干強いように感じて私の好みから外れるのですが、今回の開発中ゲーミングキーボードはさらっとした表面摩擦の少ない仕上がりで、期待感を抱かせてくれました。

そのほか R3 は無線接続に対応したことで外枠サイズが大きくなっているところ、開発中ゲーミングキーボードはかなりの省スペースを実現しています。これは好みが分かれるところだと思いますが、個人的には好感を抱きました。省スペース化にこだわるあまり REALFORCE ロゴすら背面に持っていったとのことです。ロゴは前面にあってほしいタイパーも多いかもしれませんが、私としてはロゴの有る無し自体というより、思想が前に出ているところが好みです。

ちなみに、キーがわりと高く浮いたような感じ(意味分からないと思いますが上の記事にある画像をよく見てください)になっています。ざっと試打してみた限りでは特に打鍵への影響は無いように感じましたが、もしかしたら何らかの良い影響もしくは悪い影響があるかもしれません。"ゲーミング"用途に適した形状としてこうなっているのか、デザイン的な理由による選択なのか分かりません。東プレ社員さんに聞いてみればよかったのですが、その場でそういう発想が出ず、聞かずに帰ってしまったのが心残りです。

 

東プレ社員さんへの突撃質問

実はこっちが今回の本題です!

前々から REALFORCE について気になっていたことがあり、勇気を出して質問してみました。

キートップの摩擦についての疑問

手放した R3

私は今 R2(R2TLSA-JP3-BK)を使用しているのですが、実は以前に一度 R3 を購入してから手放しています。R3 を手放した主要な理由は「無線接続の必要が無かったので、R2 の打鍵感が気に入っている以上、特に R3 に換える必要もなく、それなら省スペースな R2 の方が良かった」というものです冷静に考えると「じゃあなんで買ったんだよ」って話なんですけど、まあそれは勢いなので仕方ないとして、手放した理由の一つとして「キートップの摩擦が強く、打鍵感が好みでなかった」というものがありました。

疑問

上記の経験や、機種だけでなくキートップの色によっても打鍵感が違うことも過去の試打で分かっていました。(白は摩擦が弱い)今回のブースでも R3 を試打して再度色による摩擦感の違い(具体的には、R3 黒と R3 白の摩擦感がかなり違う)を再度実感していました。そのことから、以下の疑問が湧いてきました。

  1. なぜ今使っている R2 と今回買った R3 で摩擦感が違うのか?
  2. なぜキートップの色によって摩擦感が違うのか?

疑問 1. については「昇華印刷でなくレーザー印刷だったから」というのが理由の一つであることは分かっていました。まず前提知識として R2 までのレーザー印刷のキートップは昇華印刷と違って ABS 樹脂という材質を用いていた*1ようで、それが摩擦感の大きな違いに繋がっていたようです。ただし R3 ではレーザー印刷でも PBT 樹脂を使うようになった(つまり材質は昇華印刷と同じになった)とのことです。すると材質は変わらないということになりますが、恐らく私の購入した R3 はレーザー印刷であることによって摩擦感に違いが生じていたものと思われます。

疑念と不信感

私は元々レーザー印刷より昇華印刷の方が文字が消えにくい高級な印刷方法であることは認識していましたが、摩擦感に違いがあることに気付いていませんでした。R3 を購入するにあたって、自分の購入したい「黒・静音・all30g・テンキーレス」という条件で昇華印刷のラインアップが無いと知ったとき、「あー昇華印刷無いのかあ。まあ文字が消えても別に実害無いし、いいか~」と軽く考えて、レーザー印刷のものを購入しました。

まあ正直 9 割くらいは「買う前に試打しなかったのが悪かったな」と思ったのですが、1 割くらい東プレさんに対する若干の疑念や不信感が生まれました。それは「なんで昇華印刷のラインアップが無い機種があったの?」ということから始まり、以下のように膨らんでいきました。

  • なぜ打鍵感が違うのに昇華印刷のラインアップが無い機種があったのか?
  • コストや素材在庫等の問題かもしれないが、もしかして「摩擦」という重要な要素を開発陣が軽視しているのではないか
  • そもそも材質や印刷方法による摩擦の違いをちゃんと明確に認識しているのか? 実は大して気付いてなかったりするのではないか?

つまり、REALFORCE が現存する最高のキーボードシリーズであること(耐久性、 APC などの機能性、異常なほどの重量や堅牢なチルトスタンドによる安定性などなど)は疑っていないものの、超高速域のタイピング速度やタイピングの快適性に影響する「摩擦」に対する姿勢は真摯なものなのか? というのを疑ってしまったのです。

疑うと表現すると極端に響きそうなので弁明しておきますが、もちろん、東プレの方々は本気でキーボードを作っていると信じています。だからこそずっと REALFORCE を使っています。ただ、そうは言っても摩擦に対する意識が若干なおざりになっている可能性はあるかも? と思ってしまったわけです。

ブースにいた社員さんへの質問

このように REALFORCE 開発チームの姿勢が知りたかったことや、単純な疑問であった「色や材質による摩擦感の違い」の理由(特に、同じ R3 かつ昇華印刷で摩擦が違うことが不可解だった)を知りたかったこともあり、ブースにいた社員さんに質問をしてみました。

正直、

「我ながらめんどくせえ質問するよなあ…… 社員さんかアルバイトさんか分からないけど、そもそも知らないかもしれないし、知ってても嫌な顔されるかもしれないなあ……」

と思って尻込みしそうになりましたが、質問しないと後悔すると考え、なんとか切り出しました。

以下は、やり取りの再現です。正直細かい話の流れや表現など覚えていませんので、大筋こういう感じだった、という程度の再現です。細かい部分は実際の会話と大分違うと思います。

 

テル(以下、テ)「あのー…… ちょっとお聞きしたいんですが…… 細かいことなんですけれども……」
社員さん(以下、社)「はい、なんでしょう?」
テ「同じ R3 シリーズでも、白キートップだと摩擦が少なくて、黒キートップだと摩擦が強く感じるんですが、これって何故なんでしょうか? カタログなどを見ても材質は特に違わないように思うんですが……」

私としては、この時点で「もしかしたらイベントだけのアルバイトさんかもしれないから、答えられないかなあ」と思っていました。が……

社「そうですね、材質は PBT 樹脂というものを用いていて同じなんですけれども、色が違うと塗料など*2の配合が変わるため、実際の摩擦感は変わってきてしまいます。」
テ(!? めちゃスラスラ答えてくれるやん!? てかメインの材質は同じでも、塗料だけであれほどの違いが出るのか! やっぱカタログだけ見て買うんじゃなくて試打が必須だな……)

ここで「もしかしてこの人めっちゃ詳しいのか!?」と思い始めました。見た目はすごく若くて今風の方だったので、正直オタクっぽい話題についてこれないんじゃないか(偏見がひどい)と思っていたので驚きました。それで調子に乗ってどんどん深く突っ込み始めました。

テ「そうなんですか! ちなみに摩擦が強いのがあまり好みじゃなくて、弱いのが好きなんですが、色は黒が好きで……」
社「なるほど。材質や塗料の違いもありますが、昇華印刷なら少し摩擦が弱くなるんですが……」
テ(おお! 昇華印刷の摩擦の違いも意識してるんだ! やっぱすげえ!)

この時点で「摩擦の違いをちゃんと認識していないかも」という疑念が解消され、早速手のひらを返しはじめましたが、同時に疑問も抱きました。

テ(あれ? じゃあなんで重要性分かってるのに俺が買いたかったモデルは昇華印刷がラインアップされてなかったんだよ? ナメとんか? おォン?)

テ「実は R3 を一度購入して手放しているんですけど、そのとき自分の欲しかった all 30g で静音で日本語配列でテンキーレスの黒キートップモデルでは昇華印刷が無かったんですよね……」

内心、こんな八つ当たりみたいなことを言ってどうする、とも思ったのですが、つい言ってしまいました。嫌な気分にさせるかもと思ったのですが……

社「そうだったんですか、用意が無くて申し訳なかったです…… 今は昇華印刷が用意された機種をかなり増やしている*3んですが、確かに、今でも選べない機種もあります。申し訳ないです。」

テ「……」

半分八つ当たりみたいな発言でしたが、めちゃ丁寧に謝られてしまいました…… この時点で「摩擦の重要性を認識していないかも」という疑念も解消しました。やはり、東プレさんとしても「できる限りラインアップを充実させたい」とは思って下さっているし、そのように動いて下さっているけれども、何らかの事情でそう簡単には昇華印刷を全ての機種に含められるわけではないことが分かりました。

社「…… ただ、追加購入になってしまうので申し訳ないんですが、カスタム用のキートップは全て(!)昇華印刷でご用意させて頂いているので、使いたい機種に希望のキートップが無いという場合は、そちらをご利用頂くこともできます。」

テ「!! なるほど、カスタムキートップは全て昇華印刷なんですか! 確かにそれはいいですね!」

これが、冒頭で話していた有益情報でした。いや、これ自体は大した情報ではないかもしれません。調べれば簡単に分かるからです。しかし、この社員さんとのこれまでのやり取りを踏まえて、僕はこの情報から以下のような解釈を得ました。

  • 東プレさんはキートップの摩擦の重要性をしっかりと把握している
  • それをラインアップに反映する努力をしているが、必ずしも完璧にはいかない(特に新シリーズのリリース当初は難しい)
  • しかし、その解決策として汎用的なキートップを昇華印刷で提供している(もちろん色を変えたいなどの需要に応える目的がメインだと思うが、摩擦感の好みに対応することも目的の一つに据え、社員がその認識を共有している)
  • もしかしたら、色のバリエーションが豊富なことも、塗料の配合による摩擦感の違いがあることも踏まえているのかもしれない(これは考えすぎかもしれないけど、結果としてそういうメリットが生まれていることは間違いない)
結論

私の如きしょーもない人間が東プレ様および REALFORCE 制作チーム様にしょーもない疑念と不信感を抱いてしまったことは大きな間違いだったことを痛感しました!!

やはり東プレ様は神であり、REALFORCE 制作チームは神でした。超高速域のタイピング速度や打鍵感の快適さに重要な影響を与えるキートップの摩擦」に対して東プレ REALFORCE はしっかりと向き合い、現実的な解決策を提供するために全力を尽くしてくれていると確信しました。

こういった細かいことについてしっかりと考えを巡らせて下さっているので、今後のシリーズ展開においても、こういった部分はきっと改善に向かっていくか、少なくとも悪い方向へ進むことはないのだろうと期待させてくれました。

 

ということで、タイパーのみんな! 安心して REALFORCE にいつまでもついていこうぜ!!(宗教)

*1:あまり細かいところまでは調べていないので例外はあるかもしれません

*2:本当に「など」と言っていたか覚えていません。ちょっと曖昧です

*3:後から調べたところ、本当にその通りでした。私が欲しかった all30g 静音日本語配列テンキーレス黒キートップモデルにも昇華印刷がラインアップされていました。

Sense and Sensation ~タイピングって何? タイピングの何が好き? を考えるためのフレームワーク~

この記事は、たのん さん主催 タイパー Advent Calendar 2021 に登録しています。

昨日(12/19)の記事は、TEA_R@xan さんの 中学校生活でタイピングは役に立つのか?(予定。現在執筆中とのこと) です。

明日の記事は、もきらー さんの 歌謡タイピング劇場トリセツ(予定) です。

 

まえがき

「え、タイピングが趣味? キーボードの早打ち?」

 

「それ、何の意味があるの?」

「なんか地味だね。何が楽しいの?」

 

たまに、こんな質問をされるタイパーがいるみたいですね。

これ、煽りとして言われる場合*1は別として、わりと興味深い質問だと思います。

 

「タイピングの『意味』って何だ?」

「タイピングの『楽しさ』って何だ?」

 

タイピングを楽しむ中で、もしくは、タイピングのことを誰かと話したりインターネットで調べたりする中で、あなた自身、上記のような疑問を持ったことがありませんか?

もしくは、誰かの語る「タイピング」のかたち・・・あり方・・・に対して、「タイピングってそういうもんじゃない」とか「そんなのつまんねーだろ」とか、逆に「そういうタイピングもありだな」とか「それ面白そう!」とか、思ったことはないでしょうか。

 

こういう疑問や感想を抱くことがあるのは、

 

タイピングの「意味」や「楽しさ」についての考え方が、人によって大きく異なる

(もっと根本的には、タイピングって何なのか、についても)

 

ことが理由ですよね。

 

まあ実際は「そんなのどうでもいい、好きだから好きなんだ」でいいんですけどね。とは言え、どういうところが好きなのか、自分の気持ちをもっと知ってみたくないですか? 好きなもののことをもっと知りたい、もっと知ったらもっと好きになる。それは人間として当然のことです*2

また、「何が楽しいの?」と言われて「こういうところが楽しい!」と胸を張って言えるようにしたいですし、どうせなら、相手に「へえ、面白そうだね。何か良いソフトとかある?」なんて言わせたいものです。そのためには、自分にとってのタイピングの魅力だけでなく、自分には刺さらない・・・・・けれど「他の誰か」には刺さる・・・ような答えも用意しておきたいです。そのためには、客観的に、色んな面からタイピングの「意味」と「楽しさ」を見つめてみることが必要だと思います。

 

ということで、タイピングに「意味」ってあるのか? タイピングの何が楽しいのか? そもそもタイピングって何なのか? そんなことを一緒に考えていきたかったのですが……

丁寧丁寧丁寧に考えていくと、ブログ記事 1 本では全然足りないことに気付きました。

 

ということで今回は、「タイピングって何? タイピングの何が好き?」を考える前に、それを「それってあなたの感想ですよね」という部分と「それはあなたの感想ではないですね」という部分に分けたり、タイピングの意義や意味といった理性的な部分と「スゴい!」「楽しい!」といった本能的な部分に分けたり、それらの関係を考えたりと、「タイピングって何? タイピングの何が好き? を考えるためのフレームワーク(上手に考えるための助けになるような枠組み)」を自分なりに提案してみようと思います。

 

一応、あたりまえの確認

もちろん言うまでもなく(言うまでもありませんよね?)、一人ひとりのタイパー*3にとって、タイピングに意味なんて本来は要らないです。だって、趣味ですから。意味が無いといけないなら、それは仕事です。

そして、何が楽しいのかも、別に本来はどうでもいいです。他でもない自分の人生において、「何が楽しいのか」なんてどうでもよくて、大事なのは「楽しいか」「楽しくないか」ですから。「楽しいならやればいい」し「楽しくないならやらなければいい」だけですからね。

この「趣味は個人の聖域であり、自分がやりたいならそれでいい」は絶対の前提としつつ、もっと楽しむために、あえて難しく考えてみよう、という記事です。ということで「タイピングに何の意味があるんだ…… 俺は何が楽しくてやってるんだ……」みたいに深くは考えないでくださいね。

 

Sense and Sensation

ところで、今までなんとなく「意味」「楽しさ」という 2 つの言葉を使い分けてきましたが、これらを「意味」→「頭で考える『タイピングに対する評価』」「楽しさ」→「心で感じる『タイピングに対する評価』」と一般化したいと思います。

「何だそりゃ?」と思うかもしれませんが、これらを意識的に分けて考えていくと、意外と自分の考えがこんがらがっていたことに気付くものです。ここら辺の考えがしっかり体系だっていないと、他の人とタイピングについて話す時、会話が食い違って、平行線を辿ることになったり、自分の主張が理解されなかったりします。

自分自身もそうで、タイピングの話をするとき、何かモヤモヤする、どこか整理されていない、何かが分かっていない、そういう感覚が常にありました。長年タイピングと関わり、色んなタイパー達の感性に触れながら少しずつ考えを深めていくことで、今ではかなり頭が整理されていると感じるので、それを共有してみたいと思います。

 

それでは、一体どういうことなのか、例え話で考えてみましょう。

例え話)"超"乱打タイパー

あなたは「"超"乱打タイパー」の存在を知っていますか? タイプウェルや打トレ(打鍵トレーナー)のようなミス数がどれだけあってもペナルティの無いタイピングソフトにおいて、とんでもないミス数ととんでもない速度を両立するタイパーのことです。

例えば、タイプウェル国語 R では 1 トライアルで 400 キーを打つことになりますが、僕の知っている超乱打タイパーは確か 5 回に 4 回くらいはミス数制限に引っかかる=100 ミス以上を叩き出すと言っていました*4。そうなると、もちろん打ち切ったトライアルも 80 ~ 99 ミス実に 4 キーあたり 1 回近くミスをしている計算です。

ありそうな感想

これに対して、平均ミス率 1~10% くらいのまあ一般的なタイパーから見て、ありそうな感想を適当にたくさん挙げてみます。

  • 「そんなミス多かったらどんだけ速くても意味無いじゃん」
  • 速さを競うソフト*5だし、確かにミス数なんてどうでもいいよな」
  • 「4 キーに 1 回ミスするって、そもそもタイピングと言えるのか? キーボードで実際に文章打つこと考えたら、4 回に 1 回ミスしてたらほぼ成り立たないし…… もはや何がなんだか分からない……」
  • 「記録上は速ければいいんだろうけど、私はミスが多い人はすごいとは思えないな」
  • なんでそんなミスしながら速く打てるの!? すげえ! 一体どんな打ち方してるんだろう?」
  • 「記録上は速いし、特異な技術ですごいと思うけど、俺が目指す方向性とは違うな。」
  • 「自分はミスするとイラッとしちゃうけどな。そんな打ち方で楽しいのかな?」
  • 「ミスを気にせず打つって気持ちよさそう自由っていいよな……」

Sense と Sensation に分けてみる

これ、こじつけみたい(というか実際こじつけ)で恥ずかしいんですけど、今回のテーマである「タイピングに対する評価*6」は、英単語の sense と sensation に分けて、それぞれの多義性(同じ言葉が色んな意味を持っていること)と照らし合わせてみると、良い具合に理解することができます。

原義的な意味と、派生的な意味

sense とは、シックスセンス(第六感)などと言われるように、原義的には感覚機能、つまり五感(目=視覚、耳=聴覚、鼻=嗅覚、舌=味覚、皮膚=触覚)そのもののことです。

sensation とは、sense(感覚) によって実際に捉えられた「熱い」「冷たい」「甘い」「苦い」といった「感じ」のことです。

ただ、今回は、原義的な意味よりも派生的な意味の方を使っていきます

sense の派生的な意味 … 頭で考えるタイピングの評価

これが、今回の記事で言う「意味」≒ 頭で考えるタイピングの評価 です。

  1. 意義、価値、合理性
  2. (辞書的な)意味、語義
  3. 常識、(全体の)意見、(多数の)意向
sensation の派生的な意味 … 心で感じるタイピングの評価

これが、今回の記事で言う「楽しさ」≒ 心で感じるタイピングの評価 です。

  1. (漠然とした)感じ、感覚、気持ち
  2. 大評判、大騒ぎ、センセーション

 

例え話に当てはめてみる

では、上で挙げたいくつかの語義を、今回の例え話に当てはめてみましょう。

  • 「そんなミス多かったらどんだけ速くても意味無いじゃん」

これは、sense の 1. 意義、価値、合理性 の話をしていると分かりますね。タイピングには何らかの意義があって、タイピングソフト自体や、それを使うタイパーのタイピングスタイルも、その意義に沿ったものであるべきだと考える立場からの発言です。この意見に対して補強もしくは反論するとすれば、「タイピングの意義」「意義があるとして、各タイパーはそれに沿うべきか」といった論点になるでしょう。

  • 速さを競うソフト*7だし、確かにミス数なんてどうでもいいよな」

これは分類しにくいですが、sense の 1. 意義、価値、合理性 と、2. (辞書的な)意味、語義 及び sensation 1. (漠然とした)感じ、感覚、気持ち に関わる発言と言えます。まず「タイピング」という大きな枠には意義を感じていません。また、「タイピング」という大きな枠の言葉に共通の語義を見出していません。その反面、「競う」ということそのものを重視しているように見えます。これは「競う」こと自体に意義を見出しているとも言えるし、競うこと自体を楽しんでいる(sensation 1. )とも捉えられそうです。

  • 「4 キーに 1 回ミスするって、そもそもタイピングと言えるのか? キーボードで実際に文章打つこと考えたら、4 回に 1 回ミスしてたらほぼ成り立たないし…… もはや何がなんだか分からない……」

これはタイピングの定義、つまり sense 2.(辞書的な)意味、語義 の話ですね。タイピングって何なのか? どれだけミスしても、途中の過程で目的のキーを押してさえいれば、それでタイピングと言えるのか? 結果として打ち出される文章は、めちゃくちゃなものになっているはずだけど…… そんな疑問です。これについては、現状のタイピング競技の成熟性から言って、個人的な信教レベルに留まる話です。統一的な「タイピングって何か」という理解は無いので、結局、個人が何をもってタイピングとするかの問題です。

  • 「記録上は速ければいいんだろうけど、私はミスが多い人はすごいとは思えないな」

少し感想の毛色が変わってきましたね。これは sense 2.(辞書的な)意味、語義 を客観視しつつ、sensation 1.(漠然とした)感じ、感覚、気持ち から評価する考え方です。つまり、競技の性質としては受け止めるが、個人の感覚としては「すごい!」「シビれる!」「あこがれるゥ!」とは思わないということですよね。これは個人の感じ方ですから、侵すことのできない聖域です。

  • なんでそんなミスしながら速く打てるの!? すげえ! 一体どんな打ち方してるんだろう?」

これも上と同様ですね。「なんで!?」という驚き(もしくは興味や好奇心)、「すごい!」という感覚、どちらも sensation 1.(漠然とした)感じ、感覚、気持ち です。これも聖域ですね。

  • 「記録上は速いし、特異な技術ですごいと思うけど、俺が目指す方向性とは違うな。」

これは 2 つ上の感想と似ていますが、あえて入れました。この人はまず「すごい」という気持ち(sensation 1.)は抱きつつ、目指す方向性は違うと考えています。これは、この人は 「自分にとってのタイピングのあるべき姿」を持っている、つまり自分にとっての sense 2. (辞書的な)意味、語義 を確立していて、それに沿って能力を高めることに嬉しさを感じる(sensation 1. )ということです。

先ほど「タイピングの定義は個人的な信教レベルに留まる話」と書きましたが、それは何も「個人的な信教レベルなので意味が無い」と言いたいわけではないです。むしろ、個人的な信教から個人的な「嬉しさ」「楽しさ」が生まれるという意味で、これも聖域だと考えています。ただ単に、個人にとっては聖域(最重要な事項)だが、他人にとっては無関係(何の価値も持たない)ということです。この両極端な性質を理解しておかないと、話が全く噛み合いません。

  • 「自分はミスするとイラッとしちゃうけどな。そんな打ち方で楽しいのかな?」

これも sensation 1. (漠然とした)感じ、感覚、気持ち の話ですね。しかし、ここでちょっと考えを深めて、この「イラッとする」という sensation 1. はどうして生まれたの? ということを考えてみましょう。

そもそも正しく打つことに意味がある(sense 1.)、正しいキーを打つことこそがタイピングの定義だ(sense 2.)、と考えている(もしくは無意識に感じている)から、ミスをすると「正しいキーを打てなかった=失敗した」と捉え、イラッとするわけですよね。

となると、実は sense 1. や sense 2. によって sensation 1. は影響を受けると分かります。これは実はとても重要なことです。感覚・感性といったものも、理性に引っ張られるということですね。

  • 「ミスを気にせず打つって気持ちよさそう自由っていいよな……」

これは 1 つ上と同じことを、逆の立場から見た感想です。上記のような sense 1. や sense 2. に関する固定観念*8を持っていた人が、それから解き放たれることで「気持ちいい」「快適」「自由」といったポジティブな sensation 1. を得られることもある、ということです。

ただし、必ずしも sense 1. や sense 2. を狭く捉える(自分の考えるタイピングのあるべき姿はこうだ!タイピングとはこういうものだ! という考えを強める)ことが悪いと言っているわけではありませんsense 1. や sense 2. に関して細かい規定を置き、忠実にそれに沿うことができれば、より大きなポジティブな sensation 1. を得られるからです。つまり、戒律の厳しい宗教に入ってしっかり戒律を守れば、快感が得られるというようなことですね。それ自体は個人の聖域なんですが、薬も過ぎれば毒になると言いますので、変に縛られて苦しまないようにしてほしいですし、ましてや他人に押し付けないようにしたいものです。まあ、まとめると、「個人的な sense 1. や sense 2. を持つことは劇物なので上手く使って下さいね」、ということです。

 

sense 3. と sensation 2. はどこいった?

ここまで、sense 3. と sensation 2. が一度も出てきませんでした。これらは少し毛色が違うものです。

ここまでは全て個人の感想・考えだったのですが、ここからは社会の感想・考えです。ちなみに、社会の感想だから重要だというつもりは一切無い*9です。単純に、話を分けて考えましょうということです。

sense 3. 常識、(全体の)意見、(多数の)意向

これは「タイピングって何の意味があるのか(sense 1.)」「タイピングって何なのか(sense 2.)」の社会的な共通理解*10のことです。「社会」のような大げさで複雑すぎるものだけでなく、もう少し小さな「複数の人間の集団」について考えてもらってもいいです。例えば「毎パソ参加者という特定の集団が共有する競技の意義(sense 1.)と競技ルール(sense 2.)の共通理解」などと考えれば分かりやすいと思います。

これ、結構混同しちゃってる人がいるように思います。先ほどの例え話で言えば、「そんなミス多かったら意味無いじゃん」というのを、個人的に思うだけでなく、一般常識のように口に出してしまう人ですね。そのタイピング観が個人的なもの(sense 1. や sense 2. )なのか、共通理解(sense 3.)なのか、もしくはどこまでが共通理解でどこからが個人的なのか、よく考えないと、誰もまともに話を聞いてくれません。

逆に、共通理解が存在する場なのに、個人的なものにこだわるのもおかしい話です。毎パソの話をしている時に、例えば「実際の文章作成ではどうせ推敲や校正といった手順が入るのだから、一次的な入力作業における 1 ミスの意味を大きく評価しすぎるのは違うのではないか」といった問題提起をしたいのであれば、その考え方が現時点の共通理解(sense 3.)とは反した個人的意見であることに注意して丁寧に論を展開しないと、強い反発を受けてしまうでしょう。sense 3. まで昇華されて固定した考え方(明文化もしくは暗黙的に共有された競技の意義やルール)は非常に強力なものであり、そこに異を唱えることは、単なる「個人の感想のぶつかり合い」とは少し意味合いが異なります。

sensation 2. 大評判、大騒ぎ、センセーション

sense 3. が「社会にとっての sense 1. と sense 2. 」であったのと同様、sensation 2. 大評判、大騒ぎ、センセーション とは、「社会にとっての sensation 1. (漠然とした)感じ、感覚、気持ち」のことです。

先ほどの例え話で言えば、超乱打タイパーの存在が可視化された時(太古の昔です)、結構タイパー内で話題になりました。「何だそりゃ」「すげえ」「訳分からん」「ああだ」「こうだ」「どうだ」「そうだ」と、結構タイパー達に波紋を投げかけて、タイパーとしてはその驚きや混乱ぶりを楽しんだり、特異な技術に感嘆したりしなかったり、まあ分かりやすく言えば、楽しんだわけですね。

他にも、例えば RTC が行われ、miri さんの対戦動画やインタビュー記事などがインターネットに公開されたことで、タイパー以外も「タイピングって極めるとこんなスゴいのか!」「俺もわりと速いし出られるんじゃね!?」「私も miri さんみたいに打てたら楽しそう!」などと盛り上がる、つまり楽しめるわけです。これが sensation 2. 大評判、大騒ぎ、センセーション です。打っているタイパー個人ではなく、それに関わる複数の人々が何らかの気持ちを抱くことです。

この sensation 2. に意義や価値はあるか?

これは難しいところですよね。「合理的価値」みたいなものは直接的には*11無いとは思うのですが、そもそも社会(複数の人々)が「楽しい」と思えれば、それはその社会に利益をもたらしているとも言えます。「踊るアホウに見るアホウ、同じアホなら踊らにゃ損」という有名な言葉がありますが、これは「楽しんだもん勝ち」「楽しむこと自体がなんだ」という考え方が、少なくとも日本人の感覚としてある程度受け入れられていることの証明でしょう。

つまり、タイピングの「意味」「意義」という言葉が使われるとき、何故か sense 1. の「合理的価値」的な文脈で語られがちですが、この「みんなが楽しいと思うこと」も本来は価値であるはずなのです。

この考え方に立つと、「ミスが多ければ意味が無い(価値が無い)」といった単純な発言が、いかに一面的な表現か分かると思います。もちろん、偏っているから悪い、とは言っていません。単に論点整理がショボくて誰も耳を傾けないレベル、というだけです。

そんな言い方じゃなくて、ちゃんと論点を整理して、「ミスが多ければ、タイピングの本来の姿(sense 2.)であるはずの文章入力という観点から外れてしまう。それでは個人的にも社会的にも価値(sense 1.)が無い。だからミスが多いタイピングは低い評価にするべきだ。」とか、「タイピングの本来の姿(sense 2.)は文章入力だから、人々はそれに影響されて、速く正確に文章を入力することに『スゴい』『美しい』という気持ち(sensation 1. や 2.)を抱くのだ。競技の魅力(sensation 2. をもたらす力)を増すために、タイピング競技は正確性を高く評価すべきだ」とか言われると、打鍵速度信者も「ぐぬぬ、手強いぞ……」とか「この人とは(最終的に合意に至るかは別として)少なくとも議論する価値はありそうだな」などと考えるわけです。

 

まとめ

ここまでの話をまとめます。

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タイピングに対する「頭」と「心」による評価
  • タイピングの「意味」とか「定義」とか「楽しい」とか「スゴい」という評価や感想は、まず大きく上記のように分けられる
  • これらを分けて考えないと、話が平行線になる
  • これらは全て独立のものではなくて、色々と相互作用している
  • Sense 3. まで昇華されたタイピングの「意義」や「定義(競技のルール)」は強力かつ重要だが、それ故に、個人的な考えを Sense 3. と同一視する人はヤバい
  • Sensation 1. はタイピングに対する心の動き(個人の感じ方)であり、「聖域」だが、それ故に社会的な価値は持たない
  • とはいえ、Sensation 2. になると社会的な価値を持つと言えなくもない。多くの人が楽しめたら最高

 

いや、長々書いてきておいて、こう締めくくるのもどうかとは思うんですけど、「だから何?」感がすごい。いや~~本当、僕としては本心からめちゃくちゃ重要なことだと思ってて、頭の中ではこういうこと(価値観や感性を細かく分析し、見当違いなことに適用して自分の思考をミスリードしたり他人に押し付けたりしないこと)をめちゃくちゃ大事にしてるんですけど、文章にすると、まあ「だから何?」って感じが強いです。

しかもフレームワークの導入しかできてないんで、「じゃあ sense 1. タイピングの意義って何がある(ありえる)んだ?」とか、「sensation 1. タイピングの『楽しさ』って結局どういうものがあって、それは sense 1. や 2. と具体的にどういう影響を及ぼし合うの?」とか、「sense 2. タイピングの定義やあるべき姿 ってある(ありえる)の? これから作るとしたらどう定めるべき? 他の競技はどうやってそれを作ってきたの?」とか、本質的に重要な「論点」たちのことは全然話せていません。今回は本当に整理しただけです。

 

いつか、少しずつこの辺りのことを詰めていきたいものです。応援よろしくお願いします。

*1:つまり「趣味ダッサwww 陰キャ乙wwwww」をオブラートに包んだ表現として言われる場合のこと。いや、そんなことあるのか知らないですけど。まあ、もしそんな風に言われると、思春期のタイパーは落ち込むかもしれません。趣味は個人の聖域なので、他人からどう思われようが気にしないのが人生の秘訣です。

*2:要出典

*3:ここでは、趣味としてタイピングを楽しむ人のこと。職業タイピストはちょっと話が変わります。

*4:だいぶ昔のことなんで、細かい数字はめっちゃ曖昧です。ごめんなさい。実際はだいぶ違うかも

*5:正確には、「タイプウェルの公式ランキングサイト GANGAS は速さを競うランキング(だった)」という言い方が正しい

*6:前述のとおり、タイピングに対して頭で考える評価・心で感じる評価のこと。つまり意味があると思うことや楽しいと思うことなどです。

*7:正確には、「タイプウェルの公式ランキングサイト GANGAS は速さを競うランキング(だった)」という言い方が正しい

*8:固定観念」という言葉自体には別にネガティブな意味を込めてないです。前述のように、個人の固定観念は聖域とも言えるので。ただ、後述しますが、その辺が曖昧なまま、見えない縄に縛られたように苦しんでる人がたまにいるので……

*9:というか、なんなら「個人の聖域として趣味をやってるんで、本来は社会の感想なんてどうでもいい、クソ食らえ」という考え方です。とは言え、それだと発展性が無いですし、相互理解を投げ捨てる感じになっていきますから、一応大人として、社会(というか自分以外の人間)のことも考えましょうね、というだけです。

*10:ほんとの sense の意味は少し違います。「(一般的な)常識」という意味を表す言葉は、本当は common sense ですね。sense の「常識」という訳は本来「(個人の)常識的判断力(一般的な常識に照らして、個人が判断をする力)」といった意味合いです。とはいえ、2 つ目、3 つ目のような「全体の意見」的な用法もあるようなので、ここでは都合上、ちょっと曲解させてもらうことにしました。許してください。

*11:極まって人気が上がれば広告的価値などの色々な間接的価値が生まれてくる、という意味

どっちが「スゴい」かハッキリさせようぜ! ~異種競技戦の難しさ~

この記事は、たのん さん主催 タイパー Advent Calendar 2021 に登録しています。

昨日(12/12)の記事は、dqmaniac さんの 多言語部門におけるロシア語タイピングの強化 です。

明日の記事は、たのん さんの (予定)タイピング温故知新 ~古きタイピングゲームを温め新しきタイピングゲームを知る~ です。

 

まえがき

 

唐突ですけど、「強さ議論スレ」って知ってます?

 

これ、本当、ありとあらゆるジャンルに存在するんですよ。……いや、「ワンピース強さ議論スレ」とか「ポケモン強さ議論スレ」は分かるんです。だって、ワンピースもポケモンも、戦い(バトル)が物語(ゲーム)のメインですからね。

そうは言っても、サザエさん強さ議論スレ」とか、ジブリキャラ強さ議論スレ」辺りになってくると、ちょっと、控えめに言っても「狂ってる……」って思いませんか? 僕は思います。流石に意味分かりませんって。

 

ただ、理屈抜きで「誰が強いのか?」「誰がスゴいのか?」をハッキリさせたいというのは、もしかしたら、抗いがたい人間の本能なのかもしれない…… なんてことを思ったりもします。

 

導入:どっちが「スゴい」?

さて、タイピングの話です。

例えば、「英語タイピングサイトで 1 分に 650 文字打ちました!」って人と、「日本語ローマ字入力タイピングサイトで 1 分に 700 キー(ひらがなの数でなくローマ字の数)打ちました!」って人、どっちが「スゴい」と思います?

 

うーん、数字が 700 > 650 と大きいので、普通に考えたらローマ字 700 キーですかね?

でも、英語って大文字とか '(アポストロフィ)とか頻発するんで、シフトキーを押さないといけないから、ローマ字入力より大変(?)なので、それで 650 なら ローマ字 700 より「スゴい」かも??

 

まあ、ここで理性的な大人なら、「いや、そもそも文章の打ちやすさ自体も違うから、比べること自体無理な話じゃない?」って思っちゃうかもしれません。実際はその通りで、日本語タイピングと英語タイピングは違う競技ですから、本来、厳密な意味で比べることはできません

 

……とは言ってもですよ。タイピング競技者もしくはタイピング競技ファンとしては、「いやいや、とはいえやっぱりどっちが『スゴい』のか知りたいじゃん!」と思うこともあるでしょう。

いわば、異種格闘技戦ですよね。「人間の大きさになったカマキリと、最強の人間、どっちがツエーんだよ?」「孫悟空とルフィ、どっちがツエーんだよ?」ってな話です。まあ、興味深いというか面白いというか、実現すれば夢のある話ではあるわけです。

 

疑問:それって比較できるのか?

では、どっちが「スゴい」か、どうやって決めればいいんでしょうか?

異種格闘技戦なら、戦わせればいいので単純明快な話です。(もちろん、人間大のカマキリと戦いたいなら、脳内で戦えばいいのでやはり単純明快な話ですね。)

ですが、英語タイピングと日本語タイピングを戦わせることはできません。仕方ないので、いくつかの案を考えていきましょう。

 

案1 : いや、そのまま数字を比べればいいんじゃないの?

……なるほど、単純明快でいいですね。ただ、まあ、これだと冒頭の疑問に全く答えてないわけですから、「俺のがシフト入力もしてるからスゲーんだし!」「いや俺のが数字が大きいんだからツエーんだし!」「いやいや俺は……」との水掛け論になりますよね。

他の案を検討していきましょう。

 

案2 : 上位何 % なのかで決めよう!

お? 少しそれらしい案が出てきました。

例えば、「俺は英語タイピングサイトで 310 位 / 10,000 人(=上位 3.1% )なんだぜ!」「私は日本語タイピングサイトで 37 位 / 1,000 人(=上位 3.7% )なのよ!」となればどうでしょう?

うーん…… まあ、上位 3.1% の方が「スゴい」と言うこともできるかもしれません悪いアイディアではないと思います。

 

とは言え、ほとんどの方は「いや、参加者のレベルが分からないでしょ」と考えるでしょう。これらのサイトが、例えばアメリカ全土、日本全国の全員同じ条件の元で参加しているサイトだったら、かなり説得力のある比較できるかもしれませんが、参加者数が 10,000 人、1,000 人と少ないですし、参加者の内訳も分かりません。

例えば、日本語タイピングサイトの参加者は 1,000 人ですが、そのうち 500 人くらいが、ガチガチにタイピングをやり込んでいるオタク達だったらどうでしょう? その中で 37 位というのは相当速いことになります。それに対して、実はこの英語タイピングサイトは子供向けの練習サイトで、10,000 人のうち 9,900 人は 5~10 歳くらいであり、タイピングに本気になっちゃってるいわゆる「大人のお兄さんお姉さん」は残りの 100 人だけだったとすれば? その中で 310 位というと、あまり大したことがないか、将来有望なスーパー小学生が 250 人くらいいるかのどちらかですよね。

 

これは極端な例ですが、やはり、両者の「スゴさ」を比べるという目的からすれば、良いアイディアとは言い切れなさそうです。

ちなみに、レーティングシステムなどもこのカテゴリに入ると言えるでしょう。

(とはいえ、今の環境内での位置を明確にできるという意味で、個人が上達のモチベーションとする分にはすごく良いものですので、これらの「相対位置を考える」という観点自体は有用だと思います。単純に、「スゴさ」を比べていることにはならない、ということです。)

(あとは、タイピングをよく知らない人に、大まかに自分の位置を説明するのにもいいでしょう。タイピングを知らない人に「私は日本語タイピングで 680 KPM で 英語タイピングで 700 CPM なんです!」とか言っても仕方ないですからね。「日本語タイピングサイトで上位 3% で、英語タイピングサイトでは上位 1% に位置してまして、かなり英語タイピングに力入れてるんですよ!」と言えば、「なんか珍しいことをスゴく頑張ってて、わりと上位にいるんだな! 英語タイピングがスゴいみたいだけど、実際どんなことやってるんだろう?」くらいには思ってくれる…… かもしれません。)

 

案3 : 英語と日本語の打ちやすさを考慮して統一的なスコアを計算する関数(数式)を作ろう!

むむ……! いきなり、案を出す人の IQ が上がったように見えますね。

確かに、これが実現できれば英語タイパーと日本語タイパーの「スゴさ」を比較できそうです。良いかもしれません。ちょっと考えを進めてみましょう。

関数を作るためには、英語タイピングと日本語タイピングの「違い」って何なの? ということを考えることが必要ですよね。その「違い」が、両者の難しさを変えているわけですからね。

 

とはいえ、それだけでいいでしょうか? 

英語タイパーと日本語タイパー自体の違い、もっと言えばタイパーごとの違いも無視できないですよね。というのも、例えばある点で英語タイピングが難しいと言っても、その「難しい点」を攻略するような打ち方をすれば解決するかもしれないのです。「シフトキーの入力が難しい」「単語毎のスペースキー入力が難しい」と言っても、物心ついた時からシフトキーやスペースキーを押してるんですから、英語圏タイパーはうまい打ち方を習得してるかもしれません。逆に、英語タイパーが日本語を打ったら「スペースキーが無いからリズムが取りづらい、日本語タイピングは難しい!」なんて言うのかもしれません。

つまり、英語タイピングと日本語タイピングに「違い」があったとしても、「その『違い』がタイピング速度にどのような影響を与えるか」については、タイパーの特性によって変わってくるということです。

(もちろん、反論として「いや、でも『タイパーの特性に関わらない打ちやすさの違い』は厳然としてあるはずだ!」という主張はあるでしょう。実際、それは正しいだろうとは思います。そして、それを把握するために、マッドサイエンティストならこう言うかもしれません。「たくさんの生まれたばかりの赤子を研究所に閉じ込めて、日本語と英語を両方同じ練度で覚えさせた上で、同じ時間だけ日本語タイピングと英語タイピングをやらせて統計を取ったら、純粋な『日本語と英語の打ちやすさの違い』が計測できるはず!」と。しかし、個人的にはこんな非人道的な実験を行ってすらも、計測できないと思ってます。例えば、その赤子が自然に身に着けた運指が、偶然「英語タイピングに不向きなもの」であったら?  まあ、赤子を 1,000 人くらい用意すれば、有意差を見出だせるのかもしれませんが…… そこまでするほどの意味はなさそうに思います。)

 

関数を考えてみる(案 3 の検討)

ということで、「打ちやすさに影響しそうな要素」を、言語側の要素(英語タイピングと日本語タイピングの難しさの違いに直接影響を及ぼす要素)と、タイパー側の要素(日本語と英語の「違い」が速度に影響を及ぼす度合いに違いをもたらすようなタイパー毎の特性)に分けて、思いつく限り挙げていきましょう。

ここで、「ほぼ明らかにマイナス要素」というものには赤色、「ほぼ明らかにプラス要素」というものには青色、「+ー判断つきにくい要素」は紫色をつけていきます。

打ちやすさに影響しそうな要素(言語側 ※英語から見て)
  • シフトキー入力の頻度 : 大文字, ', ", & など
  • スペースキーの頻発 : 例えば It's a true world. という短い文に 3 つものスペースキー
  • 子音→母音のパターンに限らないので打鍵パターンが豊富 :  th, tr, cl... 極端な例では rhythm とか  
  • 促音(っ)による子音の同鍵連打は無い : 例えば っさ ssa, った tta など
  • 母音の同鍵連打が割とある :  ee, oo はかなり多い上に打ちにくい
  • 言語の視認性が違う(かも): 漢字かな混じりはパッと見で読みやすいけど英語は読みにくい(かも)。でも、アルファベットは画数が少ないし情報量がミッチリ詰まってないので読みやすいという人もいる(かも)
  • 文字そのものが「読めない」ことはない: 例えば課題文に「鏖」と書いてあったら零と末崎の弟分 板倉くらいしか読めない。それに対して「 d と r と m と f と s のアルファベットが読めない」という人は多分いない
  • 言語から打鍵列への変換処理が無い:「あいうえお -> aiueo」のような脳内変換が不要。また「か -> ka で打つか? ca で打つか?」 とか「あいらゔゅー -> vyu か? vuxyu か? vulyu か?」とかいうことはない。そもそも「『ゔ』ってどうやって出すの!?」ということがない
  • 打ち方の選択肢が無い:上記の裏返しで、「ぽかぽか -> よし、これは pocapoca と打った方が楽だな!」とか「赤く染まった -> この『赤く』は akaku より acaku と打った方が速いな!」といった柔軟な打つキーの選択はできない
  • そもそも言語が違うので打鍵列(どんな順番でキーを押すことになるか)の傾向が根本的に全然違う : p, q が多いのはしんどいと思うけど、za とか wa があんま無いのはありがたいとか、言い出すとキリが無い
打ちやすさに影響しそうな要素(タイパー側 ※英語から見て)

いや〜、言語側だけ見てもかなり複雑ですね。ここに挙げていない要素もいくらでもあると思いますし。とはいえ、こういったことを全て挙げていって、膨大な統計データを得れば、現代の機械学習とかそういう技術を活用すれば関数ができるような気がしないでもありません

しかし、ここから更に、上記の「違い」を複雑化させる「タイパー毎の特性」も考えていかなければなりません。思いつく限り、挙げていきましょう。

  • タイパー毎の練度 : 練度って何やねんという話もありますけど、まあ細かいことはおいといて。例えば「初心者タイパーにとっては英語タイピングのが簡単で、熟練タイパーにとっては英語タイピングのが難しい」といったことがあり得ます。また、「打鍵列と練度の組み合わせ」によっても打ちやすさは変動します。例えば、いわゆるアルペジオ打鍵タイパーにとっては物凄く速く打てる打鍵列ですが、初心者にとっては別に他の打鍵列と特に変わらないでしょう。この辺りのことを踏まえると、統計や機械学習によって関数を求めるにしても、サンプルとなる打者(?)の習熟度を揃える必要がありそうです。
  • 英語タイピングの開始時期:「日本語タイピングに慣れたあとで英語タイピングを始めた人」と「英語タイピングから始めた人」で難しさは同じでしょうか? 同じかもしれないですし、違うかもしれません。自分にはさっぱり分からないですが、まあ本気で評価関数を導こうとするなら、考慮する必要はあるでしょう。
  • どのような運指や最適化をしているか:英語タイピングに向いた運指や、英語タピングを強く意識した最適化をするかしないかで、当然難しさは変わってきます。(その最適化の必要性自体を「難しさ」と判断すべきか否かという問題もありますが、とりあえず置いておきます)
  • 母語は何か(打とうとする言語の運用能力はどの程度か): つまり「日本人にとって英語タイピングは難しい」というのと「英語タイピング自体が難しい」というのは別の話です。
打ちやすさに影響しそうな要素(ゲーム・競技側)

最後に、念の為注記しておきます。

上記に挙げたような要素は、ゲーム・競技毎に異なってくるものです。

例えばシフト入力がどうこうと書きましたが、当然、「シフト入力なしの英語タイピングサイト」なんてものもあるわけです。スペースキー入力についても、「スペースキー入力を必要とする日本語タイピングソフト」もありますe-typing などのメジャーサイトでも「日本語ではなぜか句読点(。や、)を入力しなくていいのに、英語では , や . を入力させられる」ことも多いですよね。

つまり、「日本語だからこう」「英語だからこう」という決めつけすらもできないということです。本気で「それなりの信頼性を持つ関数を作りたい」というのなら、そういった影響も無視はできないでしょう。

 

で、関数は作れるのか?

……ここまで読んで、どう思いましたか? 正直、僕は作れないと思います。いや、厳密には作れるとは思いますが、「競技タイパーが意味を感じられるような関数は作れない」と思います。

例えば、「標準運指(最適化なし、ホームポジション固定)に限って」「初心者〜中級者など練度を限定して」「一定の条件を満たす競技ルールに絞って」といった仮定をたくさん置けば、統計的に導き出すことは可能かもしれませんが、競技タイピングレベルの高速域でそれが意味を持つかどうかというと、正直言って、ほとんど意味が無いわけです。

 

秒間 5 打のタイピングと秒間 15 打のタイピングって全然世界が違いますし、秒間 15 打といった世界になってくると、言語どうこう以前に、タイピングスタイル(運指とか最適化)とか個人の能力の影響が大きすぎると思います。

 

あ、でも

先ほど「全く意味が無い」と書きましたが、それは今回の記事の趣旨である「異種競技間で『スゴさ』を比較する」という観点からは意味が無い、という意味です。

上で書いた通り、「打ち方や競技ルールを仮定した時の、ある課題文の打ちやすさ」を計算する関数は作れると思っていますし、それ自体は色々と有益に使えるものだと思います。例えば、毎トライアルで出題ワードの平均難易度を平準化するとか、同じユーザの違うワードセット間での記録を標準化した上で成長度のグラフを作るとか、色々と使えると思います。

くどいようですが、「異なる競技」「異なるスタイル」に渡る比較はこういった手段では難しい、と言っているだけです。

 

答え:結局、「スゴさ」はどうやって比べるの?

ということで、日本語タイピングと英語タイピングの「スゴさ」を比べるための方法を色々考えてきましたが、僕の結論としては、

こんなもん比べられね〜〜〜〜〜!!

というものです。

 

いや、だって無理ですもん。僕だって、Sean Wrona のスゴさを 100 として、僕の タイプウェル国語R基本常用後 20.713 秒のスゴさは 70 なのか 60 なのか 50 なのか、意外と 85 くらいあったりするのか、知りたいですよ。でも分かんないですよこれは。現状、どんなスゴい学者やデータサイエンティストでも、ちゃんとは計算できないと思います。

 

妥協:例えばシフトキーだけに絞ったら?

異種競技タイパーの「スゴさ」を総合的に比較するのはどうやら難しい…… ということが分かってきました。

では、せめて領域を限りなく狭く絞って、「少しでも速度の指標を近付ける」もしくは「少しでも違いを吸収する」というようなアプローチはどうでしょうか?

それも、できれば上記で色々と挙げた要素のうち、計測することが難しそうな要素は無視して、厳密に計算できる要素に絞るのはどうでしょう?

 

例えば、英語の 650 CPM(文字/分)と日本語の 700 KPM(キー≒ローマ字の数/分)があった時、大文字や ' や " がどれだけあったか(余計なキー入力がどれだけ発生したか)を数えるなどすれば、「その 650 CPM は 690 KPM に当たる!」というような計算はできるでしょう。(この辺り、詳しくは 英語タイピングにおける文字数とキー数の比率 - テルのタイピング記 参照) 

 

こういった努力は「指標を統一して分かりやすくする」という意味はあると思います。英語の 690 KPM と日本語の 700 KPM のどちらが「スゴい」かは別として、少なくとも「こっちの人は 1 分間に 690 キー打って、こっちの人は 700 キー打ったんだ」ということは分かります。

そこに意味を見出すか見出さないか、見出すべきか見出すべきでないかは、個々人の考えですが、それはそれとして、「事実として何キー打ったのか」が分かることには価値があると思います。

 

ただし、このように計算を行ったところで、シフトキーについて考え尽くしたとは言えません。ちょっと、下の質問に答えてみてください。

質問:「右シフトで大文字 A を入力する(つまりシフトキー+Aキー)」と「pa と2文字の入力をする」の、どちらが大変(時間がかかる)でしょう?

どうでしょう? 結構、パッと答えるのは難しいんじゃないでしょうか?

この質問に対しては色々な回答が予想されますが、僕が考える答えは「一般的には前者(大文字A)のが大変だが、厳密に言えば場合による」です。

 

まず、「一般的には大文字 A のが大変」というのは、シフトキー入力には 1 文字分以上の負担を強いられることが理由です。「Shift -> A」と 2 キー入力しているだけのようですが、実際は「Shift -> (Shift押しっぱなしで) A -> 次のキーまでにShiftを離す」というように、p -> a といった単純な 2 キー入力に対して、「シフトを押す/離すタイミングの管理」という追加の仕事を要求されています。単純に仕事が増えているわけですから、これはどう考えても 1 キー分の打鍵よりは負担が大きいです。

 

ここまでは気付く方も多かったと思いますが、「厳密に言えば場合による」というのは気付きましたか? こっちに気付いた方は、英語タイピングをかなりやり込んでいる方ですね。これは「ゲームの種類によっては、文頭のシフトは先に押しておくことができる」というようなことです。例えば typeracer などでは先に課題文が表示されていますから、あらかじめシフトキーを押下したまま待機しておけばいいので、1 キー分稼ぐことができます。他にも考えていけば色々あるでしょう。

とはいえ、"The ..." といった文章なら、やはり「h の前にシフトを離さなければいけない」ことの負担が重いので、1 キー分かそれ以上の負担があるように思います。このテクニックが有効になるのは "A ..." から始まる文章ですね。スペースキーを押している間にシフトを離せばいいわけですから、このパターンであればシフトの負担はほぼゼロに近い感覚です。

 

結論:定量的評価の難しさ

どうやら、やっぱりシフトキーの負担すらも、ちゃんと定量的に評価するのはなかなか難しいようです。いや、このくらいなら出来なくはないと思うんですが、とりあえず「押す回数の分だけ負担が増える」という単純なものではないということですね。

 

テルさんは何が言いたかったの?

ずいぶん話が長くなってしまいました。

ここまで読んでいただいて、もしかしたら「前書きでは、漫画を例えに出してまで『異種格闘技戦には夢がある』ようなことを言っておいて、結局「比べられない」ってどういうつもりだよ?」 と思ったかもしれません。しかし、ここには僕の強い思いがあります。

それは、「無理に比べようとしないで、違いを知ってリスペクトして、それぞれの味わいを楽しもうぜ!」ということです。僕は、これが凄く大事なことだと思っています。

 

比べようとしないことで、見えてくるもの

前書きの例え話の「孫悟空とルフィどっちが強い?」で考えてみましょう(読んだことない方は雰囲気を感じてください。)

……いや、これ正直どう考えても孫悟空の圧勝ですよね。そもそも身体能力の桁が違うんですよ。かめはめ波で星すら簡単に壊せて、瞬間移動もできる。「ルフィはゴム人間だから物理攻撃は通じない」? いいえ、気円斬があるのでルフィにも攻撃は通じます。

 

とは言っても、ですよ? ここで「ルフィざっこwwwwwww 孫悟空の下位互換じゃんwwwwwww ワンピース読んでるやつ全員間抜けかよwwwwwww」となりますか? って話ですよね。

ルフィファンの孫悟空アンチ(?)だったら、きっと「孫悟空なんて社会性皆無で確固たる夢も未来のビジョンも無く生きてて、息子の悟飯ほったらかしで修行ばっかしてピッコロに悟飯を取られちゃった父親失格のクズじゃん!! ルフィは仲間と一緒に海賊王っていう夢を追いかけてるし、ナミを助けた時みたいに他人の心の機微も分かるし、強すぎないからこそ仲間のために強くなろうとする姿勢が尊いんだもん!!」って言いますよ。(※別に僕は孫悟空アンチじゃありませんよ。むしろ好きです。念の為)

 

変な例えだったかもしれませんが、なんとなく伝わったでしょうか。「強さ」という比べられるものだけ見ようとしたことで、「その人(今回はルフィ)が持つスゴさ」が見えづらくなったんです。

一般化して言えば、一つの尺度に落とし込もうとすると、見えなくなるものが多すぎるってことですね。

 

タイピングでも同じです。「どっちがスゴいのか」を比べようとするのもいいですけど、「それぞれのスゴいところ」をまずしっかりと見るのが、観戦者としても、競技者としても、「タイピング」という「細かく枝分かれした異種競技の集合」を楽しむ秘訣です。

 

英語タイピングが速い人は、シフトキーや日本語とは違う慣れない打鍵列、スペース入力に適応しててスゴいです。

カナ入力が速い人は、広いキーボードを使いこなしててスゴいですし、打鍵列のパターンが多すぎるのに適応しててスゴいです。

毎パソ和文の固定文入力が強い人は、変換をしっかり把握して計画を立てたり、練習した成果を本番でキッチリ出すメンタルやミスしない注意力がスゴいです。

逆に毎パソ和文で初見入力が強ければ、多様な変換法からベターなやり方を導く思考の瞬発力や、文章の認識・変換の組立・打った文章にミスが無いかのチェックなどを並行して行う処理能力がスゴいです。

ミスがめちゃくちゃ多いけどとんでもない速度で打てる人は、ミスを許容した独自の打ち方や先読み能力、他のキーを巻き込みながらも確実に正しいキーを打ち抜くバランス感覚がスゴいです。

速度は少し落ちるけどとんでもなく正確性が高い人は、集中力や動作の再現性、打鍵中に必ず訪れるはずの「少し崩れた瞬間」にも確実にリカバーする緻密さがスゴいです。

 

ここで、こういった「それぞれのスゴいところ」を見ることの大事さに比べたら、「X 文字打ったとはいえ固定文(だから初見で Y 文字打った○○さんのがスゴい)じゃん」とか「ノーミスだから得点高くなって 1 位になってるけど、2 位の△△さんのがずっと速いじゃん」とか「確かに速いかもしんないけどミス 30 とか意味ないじゃん」とか、マジで下らないですよ。

あとは、他人に対してこんな失礼なこと考えない人でも、自分のことは何故か卑下しちゃったりとかね。タイプウェル英単語で X 位まで来たけど、人口が少ないし、国語 R で言えば大した価値ないかな……」とか、「寿司打普通はかなり自信あるけど、e-typing は○○pt しか出ないから実力はこの程度なんだよな……」とか。客観視・相対評価をしようとするのも大事かもしれないけど、それぞれの記録と、その記録を実現した能力にまず本質的な価値があるんだって。「見えないものを見ようとして、見えてるものを見落とすな」って、BUMP OF CHICKEN も言ってます

 

 

ということで、「スゴさ」についての僕の結論です。

 

同種競技の結果は比べられるから、それが絶対の価値基準。つまり、結果(タイプウェルならタイム、e-typing ならポイント、WT の対戦モードなら勝敗、RTC なら順位)が上の奴が一番スゴい。それはそれとして、『それぞれのスゴさ』もある!

 

・異種競技の結果は比べられないから、そんなことよりも、違うからこそ際立つ『それぞれのスゴさ』を楽しもうぜ!

 

以上です。最終的になんか積もり積もった鬱憤(?)により変なテンションになってしまいましたが、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

英語タイピングにおける文字数とキー数の比率

「英語タイピングにおける文字数と打つべきキー数の比率」を計算してみました。より具体的には、一般的なアメリカ英語の文章を 一般的な JIS 配列 もしくは US 配列でタイピングする場合の、平均的な キー数 / 文字数 の比率 です。

 

 

Q. その、「比率」? それって何?

タイピング速度の指標である CPM と KPM に関わる話です。(用語そのものについて詳しくは、様々な単位について(1) を参照して下さい。)

 

例えば 以下の 52 文字の例文を 1 分で打ったとします。

 - Covered with fur, or with something resembling fur.  

この場合「タイピング速度」は

 - 52 CPM ( characters per minute 文字数 / 分 ) と計算されます。

しかし、この文章には「シフト入力を要する文字」が 1 つ(文頭の C )が含まれていますから、「タイピング速度」に関する違う指標を使って、

 - 53 KPM ( keys per minute 打ったキー数 / 分 ) と計算することもできます。

 

このように、CPM と KPM は似ていますが、実際には異なるものです。

今回の場合のように文章が決まっていれば、具体的に CPM と KPM を計算することができますが、それだけでは困ることもあります。

英語タイピング練習サイトなどでは今までの平均速度として CPM が提示されますが、「これって大体何 KPM なのかな?」という疑問に答えるには、「一般的に(平均的に)、英文 1 文字は何キーなのか?」ということを知る必要があります。

 

注意点

この換算は、あくまで「一般的な換算」であって、厳密な換算ではありません。こんな換算を使わずに済むのが理想ですし、使う場合は、誤解を招かないよう気を付けて使うことが望ましいです。

 

また、「換算したから何?」という問題があります。

CPM を KPM に換算したことで、日本語タイピングで使われる KPM と指標の名前としては同じものになりました。では、この KPM を元に、英語タイピングと日本語タイピングの実力比較ができるでしょうか? つまり、「英語を X CPM で打ったので、KPM に換算すれば Y KPM だ! 自分は日本語だともう少し速い Y + 50 KPM で打てるから、英語タイピングはやっぱり難しい!」というような比較ができるでしょうか?

結論だけ言えば、こういった比較には疑問符がつきます

 

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なぜ疑問符がつくのか? ということに答えるためには、このテーマをある程度深く掘っていく必要があります。

このテーマについて、12月13日 公開予定の タイピングアドベントカレンダー2021 記事「異種競技の「スゴさ」を比べる難しさ 〜日本語・英語タイピングの違いから〜」で語りますので、ぜひご覧ください。 

adventar.org

 

比率を計算するための手法

元データ

比率を調べるのに使ったデータは、ここ(↓)のサイトの

corpus.byu.edu

 

Full-text data from English-Corpora.org: billions of words of downloadable data

 

ここ(↑)にあった、

The Corpus of Contemporary American English (COCA) 

というコーパス(生きた英語の例文データベース)です。

 

ちゃんとしたものは有料だったので、今回は無料サンプルを使いました。無料サンプルとはいえ、8.9mw と書いてありますから、890万単語も含まれるデータベース。まあ、サンプル数の大きさは十分でしょう。

 

文章のジャンルに偏りがあるんじゃない? と心配する方もいるかもしれませんが、下の方で示す通り、色んなジャンルからバランス良くサンプリングされているので、それなりには安心できると思います。

 

カウント方法

ちゃんと正しくカウントできてるの? とご心配の方もいると思いますので、カウント方法を一応記載しておきます。C++ で数えました。

分かる人は分かると思いますがかなり雑です、許して

int main(){
  set<char> onekeyset;
  string onekey = "zxcvbnm,./asdfghjkl;:]qwertyuiop@[1234567890-^";
  for (char c : onekey) onekeyset.insert(c);

  long long keys = 0;
  long long characters = 0;

  char c;
  int phase = 0; // 0:ID, 1:word, 2:lemma, 3:PoS
  while ( cin.get(c) ){
    if (c == EOF) return (0);
    if (c == '\t') phase++;
    else if (c == '\n') phase = 0;
    else if (phase == 1){
      if (onekeyset.find(c) != onekeyset.end()){
        keys++;
        characters++;
      }
      else{
        keys += 2;
        characters++;
      }
    }
  }

  cout << "keys : " << keys << endl;
  cout << "characters : " << characters << endl;
}

 

結論:一般的なアメリカ英語における キー数 / 文字数 比率

 

※ 冒頭の「注意点」をご覧の上、このデータの意味すること(と意味しないこと)をよく考えた上でご利用下さい。

f:id:TeruMiyake:20211204223047p:plain

 

ということで、N 文字の英文を入力するために、一般的には N*1.0667 キーの入力を要することが分かりました! 

1.0667 ≒ 16 / 15 ですから、平均 15 文字に 1 回、シフトキー入力が発生するとも言えますね。

 

つまり、英語入力 650 KPM は、一般的には 693.36 KPM と換算できそうだと分かります。

くどいようですが、もちろん、日本語タイピングの 693.36 KPM と 英語タイピングの 650 KPM が同価値ということではありません。両者は別物です。指標として、共通性を持たせているだけです。

文章のジャンルによる違いもある

ちなみに、話し言葉(SPOKEN や TV/MOVIES)では、1 文が短いためか、シフト比率が高いことも見て取れますね。当たり前のことですが、データとして分かると結構面白いですよね。

話し言葉だと 10 文字に 1 回、シフトキー入力が発生しているわけですから、タイパーとしては「小指が忙しそう…… ちょっと打ちたくないな」なんて思うんじゃないでしょうか?

 

あとがき と再度の宣伝

これは、日本語タイピングと英語タイピングに存在する差異の一例です。

こういった違いを一つずつ理解していくことで、タイピングの魅力的な世界を「より正しく」「より面白く」見ることができます

 

このような「細かいけど大事で面白いこと」について、タイパーアドカレ2021 では 12/13 と 12/20 の 2 回に渡って記事を投稿する予定です。ぜひ楽しみにしてください!